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蒼ノ下雷太郎のブログ

一応ライターであり、将来は小説家志望の蒼ノ下雷太郎のブログです。アイコンなどの画像は、キカプロコンでもらいました。

第二話『001』 「僕は2000年を振り返ろうと思う」(『騒音の怪物』番外編)

 ブログ小説 「僕は2000年を振り返ろうと思う」 (『騒音の怪物』番外編)

 *本編を見なくても分かるようには書いています。

 

 前回。

aonosita.hatenablog.com

 

 以下、本編。

 

  001

 さて、2000年を振り返るといってもどうしたものか。ちゃんとした資料をもとに僕は過去を振り返ることはできない。したくない。それは何だかまるでガイドブックを見ながら旅をするようなもので、足を自発的に動かし、どんどん移り変わる景色を堪能する術ではないように思うんだ。言い訳かもしれないけど、僕は手探りで2000年を振り返ろうと思う。「言い訳ね」と、僕の頭の中で声がひびいた。
 ああ、そうか。
 小説だから何でもありなんだ。
 僕は原稿用紙で書いてるわけじゃないが、原稿用紙で彼女が舞っているのを想像する。簡単に彼女が想像でき、誕生した。こんなのが小説なんだと、文字であるからこそ漫画よりも、音楽よりも、簡単に想像の人物を生み出せることができる。何だか猟奇的な犯罪者のような気分であり、この世の罪悪が雨のように降り注ぐような気分だった。
「で、あなたは何がしたいのよ」
 違う。あの頃のきみは、あなた、じゃなくて、きみ、だった。
「……めんどくさいわね……」
 煙草も吸わないよ。
「女性に接することが苦手な男性の典型的な傲慢さね。液晶画面でも眺めて日夜愛の言葉でもつぶやいてるわけ?」
「………」
 僕の頭の中で、いきなり罵倒される。
「こんなのが罵倒だなんて、随分と甘やかされてきたのね」
「随分と辛口じゃないか」
「辛口にもなるわよ。いきなり生み出されて、あんたとなんかと会話しなきゃいけないなんて」
 対話だよ。
「知らないわよ。そんないちいち文章警察じゃあるまいし、言葉の使い方に文句言わないで。最近の若者はと嘆く馬鹿な中年のつもりなの?」
 僕は彼女を想像した。
 創造した。
 長い黒髪を思い浮かべたけどどうだろか。「いいわね」と、彼女が微笑したので了承と受け取る。長い黒髪が彼女のイメージに浮かんでくる。これまでは『彼女』という単語一つで彼女をイメージするしかなく、少しだけだが、長い黒髪だけだが、彼女というイメージが明確になる。
「あと、白い肌がいいわ」
 あぁ、鈴木その子みたいな?
「今時の子って、それ知ってるのかしら……」
 というか、2000年が丁度ピークだったのかもしれない。それは……と語ろうとして少し落ち込んだ。やめておこう。
 長い黒髪、白い肌。彼女のイメージが少し形作られる。
「年齢は? あなた、あの頃中学生だったわよね」
「そうだね。だから、ようするにきみも中学生ということになる」
 中学生。
 十四歳。
「そう、十四歳。中学二年生よ。世紀末を越えた十四歳。すごく運命的ね」
「壮大な中二病だね」
 形作られる。
 まるでアニメキャラクターのパーツのようなものばかりだが、形作られる。長い黒髪、白い肌、十四歳。「これだとセーラー服を着せたいね」「変態ね」と一蹴されて、僕はやめる。
「小説家って随分と変態ちっくなのね。登場人物にさせられて、改めて思うわ。森奈津子の小説見て小説家ってあぁエッチだなって思ったけど。違うわね。小説の存在そのものがそうなのかしら」
「きみは大勢の小説家を敵に回してないか?」
「そうかしら。多かれ少なかれ、みんな思ってるんじゃないかしら」
 彼女はケラケラと、白い肌の顔で笑う。
 目は切れ目だろうか、垂れ目だろうか。
 唇は大きい、小さい。鼻はどう。低い、高い。すらりとした鼻梁? どうなの? と、イメージが交錯する。
「小説家って他の媒体の創作家よりも忠実にイメージを作り上げてると思うの」
「漫画家は? 絵の方があますことなく描けてないかい。音楽家だって、音を頭に浮かんできたのなら」
「でもそれは、どれも漠然としたものばかり」
 実際は、頭の中じゃそんなに鮮明じゃないはずよ。
「だって、イメージってそういうものでしょ。音もあるのか分からない。宇宙空間のような暗黒空間で、一人音もなく誰もいなく目的も忘れてしまうような悠久な世界で、一人、漠然としたものからイメージを現実に連れ出して、形にしていく」
「釣り人みたいだね」
「そうね。そして釣った深海魚をさばくのよ。その深海魚はぐちゃぐちゃでビチャビチャでごちょごちょしてるけど、料理人は丁寧にさばいていくの。解体していくの。レクター博士だったら途中つまみ食いをしちゃうけど、あなたはダメよ? あなたはともかく丁寧に解体するの」
「連続殺人鬼になった気分だ」
「似たようなものでしょ。創作物のキャラクターが保護法に引っかかるのだとしたら、創作物の中で、頭の中で人を殺すことも、やはり殺人なんでしょうね」
「唯一、自由だったものが崩れるみたいだよ」
「人を殺すことが?」
「人を殺すことがさ。実際には人は人を殺せない。法律というありがたい社会の仕組みがあるからってのもあるけど、それ以前に、人間は人は人を殺せないように作られている」
「だって、共感しちゃうから」
「こいつは自分と同じように考え、行動し、生きてるんだなと。それを殺したら、自分を殺したのと同じことになってしまうんだ。罪悪感ってのはようするにそういうことだと思うよ。他人だけではじまるものなんてない。自分に置き換えて、自分を通していつだって、ようやく罪の意識を感じるんだ」
「だから人は殺せない」
「人は人を殺せない」
「でも現実は人は人を殺しまくる」
「だから、アメリカではウィンターソルジャーのような集まりがある。あれ、名称は違ったっけ。あれは映画の名前か」
「あとで調べてみたら。あなたのググル先生は優しいんでしょ?」
「あぁ聞いたら何でも答えてくれるよ。でも、2000年にいた僕の彼女は一体どういう顔をしていたのかなと聞いたら答えてくれなかった」
「具体的すぎるわね」

 

 つづく

 

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