7start 2.0 番外編
*スマホだと一部表記が乱れる可能性があります。
これまで、まとめ。
前回。
I’ll(7start 2.0 番外編) 第六話「生きる?」
I’ll 第七話「戦い」
023
――僕は戦うことを決めた。
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状況を整理しましょう。
①あなた達は捕らえられている。
一、手をうしろに回され、手首と足首をゴム紐(自家製)で拘束。
二、眠り粉のようなものを布に染み込ませ、かがせた。
だから敵はあなた達がまだ眠ってると思ってます。
三、あなた達を誘拐した理由は、おそらくVへの揺さぶり。
さっきも話した通り、要求に従う・従わない関係なく
Vの信用を落とすことが目的で、人質はまず命がないでしょう。
②助けはまず期待できない。
一、場所がどこかも分からない。Vの者達が捜せるかどうか。
二、ガイドがいるからそこはあなたは楽勝ですけどね。
森深くの小屋にあります。正確な座標は――
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ガイドは容赦のない現実を突きつけた。
……いや、今はそれが重要だ。正確な情報、細心の注意でやらなきゃ……。
希望的観測で失敗することは許されないんだ。
ともかく、僕らがおかれてる状況は分かった。
だが、このいくつかの状況は解決できてるのも多い。
まず、この拘束してるゴム紐は僕の能力なら破ることができる。
体の一部を硬質化する能力――それだけじゃなく、僕は身体能力も多少強化される。
肉体の一部を変えるには、それぐらいの変化が起こるってことだろうか。
ともかく、それでゴムは大丈夫。
そして、眠り粉もこの通り、平気だ。敵は分量を間違えたのか、目はぱっちり。
それは、横になって眠っている僕のうしろにいる――少女、リスも同じだった。
……さて、問題はこれからどうするかだ。
助けが来ないのは分かった。僕はガイドの力を借りてるから、場所が正確に分かるが、Vには厳しいだろう。
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また、彼らはカバタ族の犯行だというのも
隠して行っていますね。
突入した際に銃火器を使用したのもそのため。
あのあと、何度か発砲しました。
それは、本来自分らが使ってる武器じゃなく、他の者達がやったと思わせるため。
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だから、捜すのは余計に困難だろう。
出だしからつまずいたら……せめて、カバタ族の犯行だとすぐに分かれば違うかもしれないが。
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あなた達が生き延びるには、二つの方法があります。
①敵二人を倒す。
②もしくは、逃げる。
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だろうな。
敵は¥実力はあるかもしれないが、まだ経験不足がうかがえる。
見た目から考えても若い奴らの犯行だろう。そのため、細かなとこが甘い。
この睡眠薬にしてもそうだし、クジラを……殺したのもそうだ。
あれは余計だった。
それを考えると、勝機はあるんじゃないか。クジラを殺したのはおそらく風による刃だと推理。一人は能力も分かったことだし、うまくやれば――いや、あまり自信過剰になっちゃだめか。
ここで、僕が選ばなきゃいけないのは――両方だ。
もっと言うなら、①を少々。②がメインディッシュ。
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そうですね。
敵二人を倒すまでは考えなくてもいいと思います。
ただ、逃げるにしても戦闘は避けられないでしょ。
あまりにも距離が近すぎるし、この場から即座に消える能力もないですし。
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だが、まともにやりあって勝てるとは思わない。
片方はまだ能力が不明だし、まともにやり合って勝てる自信も――ない。
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それでいいですよ。
過剰なだけの自身は、マイナスにしかなりません。
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そう、だからプラスをどんどん上げて行動しなきゃいけない。
勝率を――そのためには、どうする。
距離が近すぎるのが問題だが――例えば、注意を他に引きつけて、その隙をつく――ってことはできないだろうか。
……いや、拘束されてる状態でどうやってやれっていうんだ。無理か。
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可能ですよ。
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だが、あっさりとガイドは否定してくれる。
嫌な推測を否定してくれた。
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彼女――リスの能力ならね。
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と、ガイドはリスの能力を明かしてくれた。
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昔でいう、サイコキネシスですね。
念じるだけで、ものや人を動かせる能力です。
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――パァッーと、光明が見えたかのようだった。
それなら、外で物音を立てて、注意を引きつけられる。
そしてそうか……僕が初めて彼女と会ったときも、一度捨てた拳銃をすぐに拾い直していたが、この能力のおかげだったのか。
……しかし、問題がある。
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それを、どうやってリスに伝えるか。
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外に能力を使って、物音を立ててくれ。
それを、どうやってリスに伝えるか。
できなきゃ、いつだってできない。この拘束された状態で、どうやって。
――いや、難しくはないか。
僕は、リスの背中に指で文字を描こうとする。普通の感覚とは違ってやりずらいけど、鏡を想定すれば書きやすいかな。
「――っ!?」
ダメだった。
リスはブルルッと敏感に反応して、僕の指を力強くにぎる。
「――っ!!」
いだだだだだだだだっ――と、大声を上げそうになる。
どうやら、背中をちょっとふれただけで声を上げるほど、リスは敏感だったようだ。
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ここまできてギャグになるとは。
しかし……そうなると、方法が。
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まずいぞ。これで、方法がなくなった。
他に何がある?
これじゃ――くそっ、リスも何でこんな。いや、彼女の体質だから文句も言えないけどさ。
でも、攻撃してくることないじゃないか。おしり、揉んじゃうよ!?
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ドサクサに紛れてセクハラしない。
それよりも、どうしますかねぇ。
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ね、ねえ!
きみなら、彼女にだけ内緒でメッセージを送ることが。
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やーだ!
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なっ!?
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それは規定に反します。
あなたにできるのは、情報やアドバイスをあげることです。
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べ、別にいいだろ、これぐらい!?
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規定ですから。
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思わず、感極まって叫びそうになるのを――こらえる。
そしたら、命がないじゃないか。
しかし――しかし、どうするか。どうやって、彼女にメッセージを伝える。
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………。
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また、わざと三点リーダーを表示しやがって。
くっ、少しくらい手伝っても良いじゃないか。……もう、どうやって彼女にメッセージを伝えればいいのか。
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方法はありますよ。
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え?
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………。
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だから、沈黙するなってーの!
何だよ、少しぐらい教えたっていいじゃないか。
肝心なとこは自分でやれってか?
くっ、何てガイドだよ……いや、ガイドだと言われたら何も言い返せないけど。でもさっきは、散々好き放題言ってくれたのに……ぬぅ……方法なんて他になにが……メッセージ。
背中に指で伝えるのがダメ。
……お、おしりは?
い、いや、何言ってるんだろ。部位の問題じゃないでしょ。
……でもさ、伝えるとしたら、指でさわらせるとか――感触でしか方法がないんだよね。
声も出せない、反対に向き合ってるから視覚も――触覚――触覚?
――例えば、何かに文字を記せば?
そう、筆跡でならさわって確かめることができる。伝えることができる。
僕の体の一部を硬質化できる能力――ナイフのように、切り刻めば。
しかし、刻むものがなければ何も――いや、あるか。
なかったら僕の体で――と物騒なこと考えたけど、そんな必要はない。
ゴム――奴らは、ご丁寧に僕らを拘束するとき、ゴム紐を使ってくれた。
奴らが普段から使ってるものを――さわると表面がさらさらとしたものを。
これに、文字を刻んで作戦を伝えよう。
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考えるようになったじゃないですか。
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上から目線やめろ。
……褒められるようなことじゃないさ。
正直、どれ一つとっても不安ばかりで、辛くて――
僕は文字をゴムに刻み、彼女に触れさせた。
……彼女に、作戦が伝わったようだ。
了解したら、手を強くにぎってと指示した。
セクハラじゃなくて――作戦だ。そこから、十秒後に作戦を開始すると言った。
手を強くにぎってくれる。
……強く、思っていたよりも力が……イデデデデデッ、予想以上の強さでにぎってきた。
ちょ、リス!
そこまでされると、手が折れちゃうよ!
……ん?
力が、弱まらない。
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不安なんじゃないですか?
彼女も。
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「………」
僕は逆に決心がついた。生き残る。
024
作戦はこうだ。
まず、外で物音を立てて敵の注意を引きつける。
……耳がつんざくような音がした。
『な、何だ!?』
『て、敵か?』
派手にやりすぎだよ、リス!
それじゃ、下手したら逆に敵が警戒して引きこもっちゃうかもしれないだろ!
……だが、敵はわざわざ確認しに行ってくれた。
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今、一人が行きましたね。
リーちゃん、予想以上に緊張してて焦りましたが……。
なるほど、透明化の能力ですか。
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正確には、自身がふれたものを任意で透明化できる能力らしい。
敵の一人は衣服だけじゃなく武器も透明化して、外に出た。その能力ならいくら危険でも、気付かれずに確認できるだろう――と、思ったようだ。ありがたい。
そうなると、残るは一人だが。
「んぅぅぅぅっ!!」
僕は、目蓋を閉じながらうなり声を上げた。
身をよじらせて、わざとうるさくして、だ。
『――っ!』
敵は案の定、反応し、拳銃を向ける。
――そして、目をこらす。
うならされてる?
僕が、どういう状態のあるのか探る。
『……起きてるのか?』
反応するな。念のための確認だ。
敵は睡眠薬で眠らせたからこそ、ゴムで縛る程度しかしてない――雑な拘束をした。いくら、少女達とはいえ相手は能力者だぞ。
それが、起きていると分かれば警戒するはずだ。
場合によっちゃ、殺すかもしれない。
『………』
ここで撃ってきても別に僕は問題ない。
体を硬質化して、銃弾を防ぐことができる。
問題はこちらに完全に注意がいってるかどうかだ。
徐々に……徐々に、僕に近づいてくる。
念のため、眠ってるだけだと確認したいのだろうか。
しかし意外だな、すぐに殺しにかかると思ったけど。
ぶっちゃけると、人質といっても僕らが生きていてメリットになることは、こいつらに一つもないんだよね。
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……それほど子供を殺すってのはタブーなんですよ。
昔の人類史でも今でも――それだけは変わりません。
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ま、もうすでにこいつらはクジラを殺してる。情けなんてないけどね。
一歩、二歩と――よし、そこだ。
「やれ、リス」
命令した。
敵が起きてるのを知って戦慄するが――遅い。
敵のうしろから、イスやら家具が襲いかかった。ぶつかった。
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注意をこちらに引きつけて、さらに声を発する。
注意が完全にこちらにいったとこを、サイコキネシスで奇襲。
部屋の中にあったものを手当たり次第、敵のうしろからぶつけた。
そして――
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そして、僕は能力でゴムを切り、敵に突進するように挑み掛かった。
これで――勝機は――だが、敵は僕の頭から体重で押し潰されるように組み伏せられる。
体術――馬鹿な――。
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まずいですよ!?
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よりによって、最後のツメで失敗したらしい。
敵のバランスを崩すに崩した上で、接近戦でトドメを刺そうとしたのに――あまりにも、僕が、弱かった。
敵は拳銃をこちらに向けた。
『死ね』
「お前が死ね」
銃口は、ひっくり返って敵の顔に。
――銃声っ。
血飛沫が飛び、男は僕の顔に――降りかかろうとするのを、リスが止めて、蹴り飛ばした。
「……だ、大丈夫?」
サイコキネシスで、敵の銃口をひっくり返したようだ。
まだ怯えた表情で、涙で震えながら、僕の手をにぎるリス。
「……うんっ」
死にそうになった。その感覚が、――骨髄を刺されたかのように衝撃がまだ走ってるけど。
でも――それでも僕は、彼女に手をにぎられて、少しは和らいだ。
救われた。
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………。
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敵はまだ一人残ってる。
だから急がなきゃいけないのに、ガイドも止めなきゃいけないのに。
このときばかりは気を使って、見届けていた。
いいよ……ありがとう……少し、少しだけ。
「生き残ろう」
リスは言ってくれた。
この瞬間を大切にしたかった。
「……生き残ろう」
死にたくない。
敵を殺してでも、僕はまだ、彼女とともにいたかった。
だから、戦うことにした。
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敵が音を聴いて、もどってきますね。
(/interface_guide)
「………」
上等だよ。
NEXT → 第八話 「殺す」
本編もよろしく。