「僕は2000年を振り返ろうと思う(騒音の怪物 番外編)」
*カクヨムに投稿している「騒音の怪物」の番外編です。
主人公が小説を書くことになった話を小説にしています。
これまでのまとめ。
前回の話。
僕は2000年を振り返ろうと思う 第八話「007 彼女のこと」
本編
僕は2000年を振り返ろうと思う
第九話 「008 学校2」
彼女は女子校通いだ。
彼女は自分が通う学校のことをひどく嫌ってはいたが、その学校の評判は高く、親御さんが娘を入れたい学校ナンバーワンだとも言われている。生徒としても、都内にあり、さらに建物の外観はヨーロッパ風の昔の建築、そう銀座などにあるような石工で作られた荘厳なもののため、それに惹かれて入りたいと願う子も多かった。
そして、制服も今時珍しいセーラー服だ。……いや、今時って2000年のときは違っていたかな。時間の感覚が狂う。
ともかく、彼女は学校が嫌いだった。
最初はがんばっていたらしい。がんばって、自分がいるこの場所を保とうとしていたようだ。
小学生の頃から、いやいや中学生の頃から――彼女はクラスでは必ずクラス委員に立候補していたし、友達との人間関係も穏便にかつ冷静に対応していたし、それでいて成績もトップクラス、優等生の鑑みたいな暮らしをしていて――「あれ?」と、急に足下がぐらついたようだ。
キッカケはない。
キッカケはないらしい、これが現実とフィクションの違いなのかしらね、と彼女は言った。突如、彼女が抱いていた価値観が――世界観が、ぐらついたようだ。
何の理由もなく。
何の原因もなく。
たぶん、ノストラダムスも予言しなかったタイミングで彼女は感じた。
――何が楽しいの?
ふと、自分が必死にカタチを保とうとしていたものが崩れていくのを……彼女は見た。
まるで雪が降るかのように幻想的で神秘的で、クリスマスのカップルのための雪のようにゆっくりで排他的で――それ以降、彼女は学校が嫌いになった。友達との関係も冷淡になり、それは豹変といっていいもので、友達は悩み苦しみ、そうだきっと彼女には悩みがあるんだと、みんなで相談してよと言ってみたら。
「気持ち悪い」
とさけられた。
それ以降、彼女に話しかける人はいなくなったという。
彼女が通う女子校は荘厳あふれる立派な校舎、門からしてでかい鉄柵で圧迫する力が強く、中に入るとこれだ。校舎の中もかすかに入ってくる陽光が、貴重なほど重々しさを感じられる。その中で少女達はパッケージ化された制服を着ている――という表現は彼女は死ぬほど嫌いだ。
「そうやって、この制服にイチャモンつけるのも――パッケージ化された商品だわ」
制服を嫌ってはいた。これは値札みたいなものだと。この少女達は清純で、おしとやかな――とでも言うかのようなものだと。そして、男の欲望の的だと。
だが、だからってそれにクチにすることはなかった。それさえも、今じゃパッケージ化されていると彼女は言った。
「……でも、じゃあどうすればいいのかしらね」
そろそろ物語をはじめようと思う。
実は、彼女も小説家だ。
いや、正確にはこのときは小説を書いていた。
僕だけじゃない、僕が彼女に小説を見せて教えをあれこれ受ける『ベストキッド』みたいな話ではけっしてない。この話は、物語は、僕が彼女に引いてしまう物語だ。
ドン引きしてしまう物語だ。
図書館で、あるとき彼女はこう言った。
「ねえ、閃いたの。『本物劇団』って題名の小説なんだけど」
彼女はイキイキとした笑顔で僕に語りかける。
その小説は、実際にいる身近な人物達を物語に出すという、小説だ。
つづく → 第十話「009 学校3」
本編。