蒼ノ下雷太郎のブログ

一応ライターであり、将来は小説家志望の蒼ノ下雷太郎のブログです。アイコンなどの画像は、キカプロコンでもらいました。

I’ll 第十七話「密室殺人 ①」

 はじめに

 *スマホだと一部表記が乱れる可能性があります。

 

 カクヨムやなろうに投稿している「7start」の番外編です。

 

 これまでのまとめ。

I’ll まとめ (7start 2.0 番外編)

 

 前回の話。

I’ll(7start 2.0 番外編) 第一六話「一人でいること」

 

 本編

 I’ll 第十七話「密室殺人 ①」

 

 048

 

 事件が起こる前に、僕はガイドから三番街の銀行の話を聞いていた。

 

             (interface_guide)
               利益?
             (/interface_guide)

 

 昔の、人類史にあった銀行というのは、預金だけじゃなく、投資やお金の貸し借りも行っていたんでしょ。それで、利益を上げていた。
 でも、多分だけど、今の銀行――地下都市の、いや三番街の銀行は、そういうことしてないよね。

 

            (interface_guide)
            ああ、なるほど。
     だから、メリットは何なのか知りたいんですね。
            (/interface_guide)

 

 だって、そうでしょ。
 昔の通貨――お金だったら、いくらあっても足りないと思うかもしれない。
 だが、今は食料が通貨代わりだ。
 それと比べるとどうしても見劣りしてしまう。それほど、食料が貴重だっていう証でもあるんだけど。
 ……食料だと、どうしても生きて行くのに必要な分だけって、思っちゃうんだ。

 

            (interface_guide)
          正確には給与としての食料。
     ようするに、今の通貨の価値観もあるんですけどね。
       しかし、あなたの言うことも間違っていません。
   確かに、地下都市では必要以上に通貨を求める人はいませんよ。
            (/interface_guide)

 

 それこそ、生きて行くのに必要な分だけ――通貨、いや、食料があればいいとか。
 そりゃそうだ。命がけの仕事が多いんだ。
 願うなら、喰うために死ぬより、喰うために生きるを選択したいものだ。
「でも、じゃあ、余計に今の銀行のメリットって一体」
 だって、必要以上を求めないとなると、投資など成り立たない分野じゃないか。
 そう、僕が考えているとガイドは分かってますよ、とでも言うようにすぐ返答した。

 

            (interface_guide)
        族の存在価値を高めるためですよ。
            (/interface_guide)

 

 ……ん?
 僕はしばし、考える。
 がんばって、その意味を理解しようとするけど。

 

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              ばかですか。
            (/interface_guide)

 

 うるさいよ!
 ほんと、相変わらず言うことが生意気な人工AIだな。ひそかに気にしてることを言いやがって。別に僕は馬鹿じゃ。

 

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             はいはい。
     言い訳はいいから、どういう理由か説明しますね。
            (/interface_guide)

 

 まず、銀行の存在――食料の保有数を記録し、預かってくれる存在は便利だ。
 助かる。
 だから、銀行の存在意義は保たれる。
 さらに、もう一つ銀行を持つ意味があるんだとか。

 

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     ぶっちゃけると、三番街って通貨があるんですよ。
            (/interface_guide)

 

 そう言われて、街の通りを眺めてみると――あ、確かにいた。
 通貨らしい紙幣を渡してる人が、いた。

 

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 特殊なインクや能力者により製造されたもので、偽造はまず不可能らしいですね。
   そして、紙幣には番号がふられてあります。いつ発行されたか。
    ――で、このいつ発行されたかが重要でありまして。
            (/interface_guide)

 

 ぶっちゃけると、あの通貨って――ようは、食料の数を記録した紙なんですよ。
 そう言われて、僕はハッとなる。

 

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  ちゃんとした場所に届ければ、紙幣の価値分だけ食料と交換してくれますよ。
            (/interface_guide)

 

 つまり、記録した食料の保有数を紙幣でやり取りしてる……ってことか。
 これが、通貨の復活。
 でも、中には未だに物々交換の人もいるな。

 

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    手帳をいちいち見せに行って発行しますからね。
 大変なんですよ……、ま、それも含めて族には意味がありますがね。
            (/interface_guide)

 

 どういうこと、と僕は聞いた。
 ガイドは答える。

 ――つながり、が持てると。

 

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   昔でいう便利な道具のように、族と接することができる。
   人々と信頼関係をむすび、強固な信用となると彼は言った。
               信用。
     そう、Vが欲しいものは正しくそれなんですよ。
            (/interface_guide)

 

 信用。
 地下都市では食料以上に重要な代物。
 いつ死ぬか殺されるか分からない地下都市だからこそ、(こいつは大丈夫だ)という信用は貴重なのである。
 これは情報屋の族だけじゃなく、戦闘をする族や、その他の技術系も同じだ。
 信用。
 これこそが、生き残るための唯一の術であるといえる。これがない族は他の族からも見放されるし、相手にされない。信用ならない奴と協力なんてできるはずがないのだ。

 

 049

 

 ■事件現場。

 三番街のゲート前の大通り。


 昔は街路樹の自然を楽しみながらショッピングができる場所だったんだろうけど、今じゃ街路樹は巨大にそびえて化け物のようになり、軒を連ねる店は本来の用途を失い、宿屋代わりか族の所有物になっていた。
 そして、事件現場はその中の一角――ぽつんと置かれた空き地のど真ん中で行われた。
 正確にいうと、空き地にあったキャンピングカーの中で起きた。

 被害者は、丸眼鏡をかけた小太りの中年男性。
 あろうことか、首を刺されて死んでいた。
 目をつぶり、眠るように死んでいる。仰向けで。カラダは、両手を広げるようにして倒れて。
 凶器はナイフ。
 市場で簡単に手に入る戦闘用のもので、随分と刀身が太い。刺すには丁度よさそうが。
 失敬。
 ともかくこれで、一突き。向きからして、自分で刺したものじゃないだろう。
 いや、これだけなら(もしかしたら)自殺なのに殺人と見せかけて、と推理小説よろしく考えることもできる。
 だがしかし、キャンピングカーの中――室内は、異常が起きていた。
 一つのベッド。
 防衛のための銃器やナイフ。
 そして何より、床に埋めこまれている金庫だ。
 ――金庫は、解錠されていた。中身はない。
「通帳が枕の下にあったね」
 僕は一応手袋をつけて探り当てた。
 意味があるかどうか知らないけど、無表情のアリカに見せて言った。
「………」
 相変わらずだなぁ。
 頼むから、こんな事態はじめてだから助けてほしいんだけど。
「これは物盗りなのかなぁ」
 三番街の銀行の通帳をめくってみると、つい最近通貨を発行していた記録があった。
 最低でも、十万V(ファイブ)くらいはあるんじゃないか。
 十万Vってこの街じゃ結構価値があるけど……いや、ファイブって言い方、やっぱり可笑しいな。
 族の存在をより強調するために通貨名も族といっしょにしたんだろうけど。
 十万Vって、ようは十五万なのかって思っちゃうよ。

 アリカは無言で第一発見者の男を問い詰める。
「ちょっ、この子、こわくない!? 俺はただ発見しただけだって、ホントだよ!」
 中肉中背の、坊主頭。
 とくに特徴はない。
 ともかく、この男は第一発見者として呼ぶことにする。
 アリカは彼から、何で発見したと聞いた。
 男は正直者というか馬鹿だったので、すんなり答えた。
 ようするに、押し売りだったらしい。

 

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          世間から断絶したような者に接触し
   詐欺まがいのものを押し付ける奴がいるって聴いたことありますね。
               (/interface_guide)

 

 なるほど。別件でくわしい話を聞く必要があるな。
「ええええええっ!? 俺はただ事件を発見しただけなのに……」
 しょんぼりとうなだれる、第一発見者。
 いや、迷惑行為はダメだよ。

 

 050

 

 事件は大通りの中で起きた。
 辺りをちらちら聞きこみするが、キャンピングカーに入った人物は被害者の男、もしくは第一発見者以外はなさそうだ。
 真向かいには武器などの点検を行う技術系の族の拠点があり――そこには美人の女性がいる。被害者はよく彼女を眺めていたという話も聞いてしまう。
 これは余計な話だった……。

 

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        キャンピングカー自体は鍵が開いてました。
    でも、周囲の視線という鍵が――密室が、常にありました。
             (/interface_guide)

 

 出るとすぐに大通りに面している場所。
 そのため、人々の視線が監視となり、密室となる。なるほど、これは立派な密室だ。
 そして、タチの悪いことに目撃情報はなかった。
「………」
「俺じゃない、俺じゃないって!」
 そうなると、この第一発見者が怪しいことになるんだが。
 しかし、この人が犯人だとするとわざわざ通報する意味が分からない。
 あとあと、重大な意味があったってオチかもしれないけど。
 ……今のとこは、ないな。

 アリカは僕の腕を引っ張ると、第一発見者をキャンピングカーのわきに立っててと言って、わきにそれた。
「な、何?」
 いつも無表情の彼女にしては珍しく、顔を近づけて、何かをささやいた。

 

             (interface_guide)
           赤くなってますよ。すけべ。
             (/interface_guide)

 

 うるさいよ! 思春期なんだから、仕方ないだろ。
 ……おいやめろ、コピペして連続して話すな。やめろ。
 ……ともかく、僕はアリカの話を聞いた。

「まず、金庫の中身――お金が何処にいったのかを考える。いったかというか、理由を。
 ①どこかに隠すため。
 ようするに、お金を奪って自分のものにしようとしてる。でもこれ、無理だと思う」

 と聞いて、僕はさっきまでガイドと話してたことを思い出す。
 番号が控えられて、しかも能力者の力で何らかの要因があるんだったか。だから、誰かが不正にお金を奪ってもすぐに分かる。
 手帳には、誰がどの番号を発行したかもこと細かく書いてあるのだ。

「で、②を考えてみた。
 使っても大丈夫な理由があるんじゃないか」

 使っても大丈夫な理由?
 あの策士の二狗さんが考えたんだ。生半可な方法じゃ偽造も何もないと思うが。
 ……いや、地下都市は能力者なんて、何でもありな世界だ。
 それこそ、二狗さんも予想のつかない能力で――ん、あれ?
「そうだ。そもそも、二狗さんに頼んで心を読んでもらえば」
「誰を?」

 

              (interface_guide)
                誰を?
              (/interface_guide)

 

 うっ。
 僕はうなった。
「だ、第一発見者を……」
「してもいいけど。多分、あの人は犯人じゃないよ」
 犯人がわざわざ、こんな大通りで起こした事件を通報するとは思えない。
 ……全く、その通りで。
「でも、じゃあ何か方法があるのかい」
 密室で殺人を起こす方法。
 アリカは車にもどり、再び死体を確かめた。改めて脈をはかり、死体をこと細かく確かめる。
「………」
「ど、どうしたの。アリカ」
 彼女はベッドを見つめていた。
 何だろ、幽霊とでも交信してるのかなと危惧したが。
「ベッドのしわが増えた気がする」
 ……分かるか、そんなの。

 

 051

 

「どうすんだよ。このままじゃ、事件は」
「待って」
 アリカはもう一度クチを開く。
「犯人の目撃情報はない。……でも、お金を持って逃走した可能性は高いんだから、かさばる荷物なのは間違いないはず」
「た、確かに」
「だから、手当たり次第、大荷物の奴を探る」
 どうやって?
 と僕が問いかける前に、彼女は能力を使った。

 ――街中にいた鳥達が、カラスやハトが、一斉に飛び立った。

 

              (interface_guide)
         彼女は、鳥を自在に操れる能力者です。
              (/interface_guide)

 

 息を飲む。
 すごい……これなら、確かに街を一望できて、怪しい人物もすぐに見つかるだろう。
 逃げていたとしても、これだけの数なら――勝てるかもしれない。


 ……だが、結果だけ述べると犯人はいなかった。

 

 052

 

「……っ」
 アリカは親指の爪をかんでいる。
 ストレスが高まると出る癖かな。
 僕も困った。
 アリカの能力はすごかったが、街中を探し回った結果――大荷物の者はいて、中を鳥で脅しながらも確かめたらしいんだけど(あとで謝らなきゃとつぶやいてた)、しかし、お金を大量に持っていた人はいなかったらしい。
「でも、それこそ能力か何かで」
「キリがない」
 た、確かに。
「……だから、ここじゃ論理は必ずしも通用するわけじゃない。でも、だからって能力はいつも万能ってわけじゃない。だから、相手も策をもって行っているはず。――それさえ、それさえ分かれば」
 意外だった。
 彼女がここまで頭が回り、犯人逮捕に積極的だなんて。
 ……でも、方法がなきゃ犯人は捕まえられないよなぁ。
 まず、情報だってろくにない状況だし。

 

               (interface_guide)
               ありますよ。方法
               (/interface_guide)

 

 僕は目を見開く。
 ……ま、まじで?

 

               (interface_guide)
              シャケの能力を使えばね。
             彼女に無線で連絡させなさい。
               (/interface_guide)

 

 早速、僕は彼女に問いかけてみるが。
「………」
 この世の終わりみたいな顔をして、かぶりを振った。
「ちょ、どうして」

 

               (interface_guide)
       この子、誰かに頼むとか。集団行動が嫌なんですよ。
               (/interface_guide)

 

 何でVに入ったの!?
 えー、困ったな。
 今のままじゃ無理だぞ。もし犯人が逃走してる最中なら、一刻を争うし。

 

               (interface_guide)
           ここはあなたの腕の見せ所ですよ。
           どうにか、彼女に無線で連絡させないと。
               (/interface_guide)

 

 これは僕が代わりに連絡を取ればって話でもないんだろ。
 話すのが嫌なんじゃない。協力するという行為自体が嫌いなんだ。
「………」
 僕はアリカの両肩に手をおき。
「大丈夫」
 と、つぶやいた。
「………」
 腹を殴られた。
 ……な、なぜだ。

 

              (interface_guide)
     いや、あんなんで説得できると思ったあなたがすごいですけど。
              (/interface_guide)

 

「……分かった」
 だが、彼女は首を縦にふった。
 OKと。
 連絡するよ、と。
 ――ほら、何だよ、僕の説得で彼女はOKしてくれたじゃないか!

 

             (interface_guide)
           いやまぁ……そうですね。
       ……同情、みたいな目で見てましたけど。
             (/interface_guide)

 

 アリカは無線でリス達に連絡を取る。
 リスが何か叫んでいたけどアリカは無視。シャケに頼む。
「あなたの力が必要なの」
 若干緊張してるのか、上ずった声だった。
 それがまた、妙にかわいくて、おそらく電話の向こうのシャケも同じ気持ちだったのだろう。『かわいいいいいいいいいいいいいいっ!!』と絶叫していた。
「………」
 アリカは十年分の体力を費やしたかのように、げっそりとしていた。


 NEXT → 「密室殺人 ②」

 

 

 あとがき

 カクヨムの本編もよろしくお願いします。

 

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