不気味なんだ。この映画(映画『隣人13号』 感想)
相手がどーでもいいと思ってることも、永遠のように恨み続けてる人もいるわけで。
俺だってそれぐらい恨まれてるだろうし、俺を恨んでる奴だって誰かに恨まれてるだろうし。恨みの連鎖なんてものは果てがない。そして、その果てがないつながりを、もし解放する場が与えられたら。
前回の『世にも奇妙な物語』で紹介した、「・悪魔のゲームソフト」や「・復讐クラブ」はそれに解放を与えた話だ。皮肉なことに、解放が全て幸福につながわけじゃなく、むしろ見たくなかった人の本質がのぞける。この二つは子供と大人の差はあれど、大して結末に違いはない。どちらものぞけるは、おぞましい人の本性。
さて、『隣人13号』の感想である。
原作は、『TOKYO TRIBE』(これの奴も映画化された)で有名な井上三太の漫画。
この作者は自身のブランドもプロデュースしていてね。
昔、渋谷でお世話になったというか。一時期、買ってました。
(金なくなって、あまり買わなくなっちゃったけど)
井上三太さんの作品の世界観が、うまく反映された服が多く、オリジナリティがあり、かっこいいのが多いです。
まぁ、こういう風に冒頭を説明すると、オタクには縁のない。
HEY、YO! 的な、イケてる世界の住人に思えるかも知れないけど。
『隣人13号』の中身は、むしろオタクな奴らの世界観。
オタクでこれに目をそむけたい人が大量にいるだろ、というものだ。
監督は、これが初監督らしい(?)井上靖雄。
ぐぐっても、ほとんど何も出てこない人だけど……他の人のブログを見ると、あまり映画も見ない人らしい。
小説家でも小説をあまり見ないですごいの書ける人がいるけど……な、何かジェラシーが涌いちゃうが……。
しかし、撮れているのは間違いなく名作であり、今後も撮って欲しいところだね。今何をしているんだろうか。
……さて、本来は、ここら辺でそろそろあらすじを語るのだが。
今回はあまり語らないことにしておく。
あらすじを語ることで、感想が物語の筋のように頭に入り込み、どこが良いのか、悪いのかも枝葉のように論理立てられるのだが――今回はそうしない。
何故か。
不気味なんだ。この映画。
冒頭、硫酸をかけられそうになる小学生が映る。
そして、硫酸をかけようとしている小学生達も。
被害者。
加害者。
そして、その映像の直後に妙に赤い部屋で奇声を上げる男の映像が映ってね。
しかも全裸。全裸で「えへへへっ……」と笑ってるんだよ。硫酸の映像と交互に。まるで、それを祝福でもしてるかのように。何に祝福してるんだ。キモイ――でも、いつのまにか観客は目が離せなくなっていく。わけが分からない内に話が進み、奇声を上げてる男の部屋に、ただの全裸(何じゃこりゃ)の男。小栗旬が演じるのが入ってくる。
で、あれこれして、赤い部屋から出ると――同時に、現実で小栗旬が演じてるのが、アパートの外に投げ出されるんだ。
こんな奇妙な映画だが、実は最後ら辺までいくと、一言で説明できる映画なんだなと分かる。(いや、それが分かるまでも作品の味なんで、わざと言わないが)
あえて話をそらすようにまとめると、この作品は二重人格のような主人公の話だ。
小栗旬が演じているのは、好青年というか。魂があるのかっていうくらい、自主性が薄そうなぼんやりとした青年。
彼のトレードマークは、オレンジ色のダウンベストでね。(表紙にもあるけど)
だから、これがあるとすぐに彼だって分かるんだけど……。
アパートで引っ越してきた、ヤンママっぽい女性と挨拶したあと、ヤンママはまだ年端もいかない息子を連れてどこかに出かける。で、青年は外に出てヤンママの部屋に入る。
いや、(ん?)と思ったかも知れないが事実だ。
何の迷いもなく、オレンジ色のダウンベストは部屋に入り、ヤンママが使ってるらしい歯ブラシで歯を磨き、飯を食い、トイレに入りとやりたい放題。しかもヤンママにはちゃんと夫もいて、それを知った上で下着も漁ったりして、というか、明らかに異常な行動なのにこいつ長時間ぶらついてねw おいおい、何やってるんだよ小栗旬と思ってると――人物の顔がようやく見えて、(――あれ?)って思うんだ。
顔が、違うと。
この二人はことある事に、交代してね。
表の人格らしい小栗旬がトイレに閉じ込められたときは、助けるように現れたりもするが。
裏の人格らしい中村獅童は、ヤンママの部屋に入ったようにとんでもないことも平気でやる。
この中村獅童の演技がすさまじくてね。
(いや小栗旬の素朴な演技もいいんだが)
最初の赤い部屋のシーンもすごすぎて、誰だか分からないんだけど――いや、中村獅童の顔なんて誰でも知ってるはずなのにね。分からないほど、演技がすさまじい。狂ってる。と一言でいいあらわすこともできるだろうけど、いやそれよりも不気味。といった方が印象としては正しいかもしれない。とにかく不気味なんだ。
裏の人格、中村獅童は何も目的がなく、ただ快楽犯としてやってるように見えるけれど。
実は、ちゃんとした明確な目的があって行動してる。
……ま、それはあとあと明らかになるんだが。(これはぐぐるとすぐ出てくるので、見たい人は自己責任で)
ただ、それを知っちゃうとこれまで裏の人格がやってきたことも、全て説明がつき、不気味さは消えるし、ちょっと共感しちゃうんだよね。
最後の方ではもう、こいつの方が憐れに思えてくる。
皮肉なことに。
オタクと蔑まされた者達こそが、一番共感出来る。負の感情。
それが、中村獅童の演技によってこれまたすばらしく描けていてね。――ほんと、最初から最後まで目が離せない映画でした。
何も知らないで見るとすごい楽しめる映画だと思うので。
ぐぐりもせず、ホントはこの記事も見ないで鑑賞したら、一番楽しいのではないでしょうか。(いや、これだけ語っておいて何だが)
ちなみに、映画の最後は抽象的というか。
ちょっと難解なように作ってある。
人によって答えが分かれそうなラスト――でも、一応他の人のブログを見ると明確な答えはちゃんと提示されてはいるようだ。
それがまた皮肉でね。
どんな行為も、「ごめんなさい」の一言で案外片付くことが多い。
いや、それじゃ済まされないことも、もちろんあるけれど。
でも、少なくても何も言わないよりかは大分マシ。
皮肉なことに、それを裏の人格――中村獅童の側がそれを叫ぶのようなラストなんだ。答えなんだよ。
原作コミックも、もちろん大人気で。
ウィキペディア情報だが、ハリウッドリメイクも決まってるらしい。
のちのちのために、原作も注目。
そして、井上三太のブランドであるサンタスティックにも注目すべきかと。思います。
以上、蒼ノ下雷太郎でしたぁ。
次回予告――「鉄血のオルフェンズ」を語ります。
TVアニメ「機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ」 CM - YouTube
俺が語りたい要素、大量にあるので。
語ります、と。