蒼ノ下雷太郎のブログ

一応ライターであり、将来は小説家志望の蒼ノ下雷太郎のブログです。アイコンなどの画像は、キカプロコンでもらいました。

一人の人間が、悟りを得る行程を読むような小説(『すべては「裸になる」から始まって』 感想)

 最初はどんなミステリーだよと思って手に取るとミステリーではなく、自伝的小説だった。彼女の職業は、AV女優である。

 

 

 『すべては「裸になる」から始まって』の感想である。

すべては「裸になる」から始まって (講談社文庫)

すべては「裸になる」から始まって (講談社文庫)

 

  気軽な文体で、繊細な表現がされており、解説にあるとおり確かに文才がある。すげぇ。

 

 独裁者のように振る舞う父により、幼い頃から血なまぐさい光景を見てきた森下くるみ。彼女は上京したはいいが、やることは毎朝出勤してゴミ出して、レジ打ちして、ゴミ出して、レジ打ちしての繰り返し。単調な作業。古代で行われた刑罰のように感じた彼女は、ある日、路上でスカウトされて――

 

 とまぁ、これがキッカケでAV女優となる。

 AV女優というと忌避する人がいるかもしれない。俺だって偏見に満ちた眼で見ないかというと、正直自信がない。近しい人にAV女優がいれば、「え?」となるし、失礼なことを言うかもしれない。だが、森下くるみさんは少なくても、尊敬すべき監督やスタッフに出会ってAV女優の仕事に誇りを持ってるわけでね。

 で、誇りを持ってる仕事を侮辱されたら、誰だって怒るのが道理だ。

 作中では、ある医者がメールで(だっけか?)わざわざ説教めいたことを言ってくる。

 それがまぁ、「何で、AV女優をやるんですか?」「金ですか?」「あなたはこのままじゃ不幸ですよ」という大きなお世話だ的な内容ばっかりだ。

 いや、気持ちが分からないわけじゃない。俺だって近しい人がいたら(以下略)――でもさ、だからといってさ、この医者がどう思うが知らないが、少なくても森下くるみさんにとっては誇りを持って仕事としてるわけで、それを外野がとやかく言うことじゃないよな。しかもこの医者は、ばりばり誇りなんてねーだろとダイレクトアタックまでしやがってるわけで。

 

 いや、もっかい大事なことだから言うが、俺だって『偏見』なんてものが全くないと言えば嘘になる。人間、多かれ少なかれ、一つや二つはあると思う。偏見なんてものは大体『無知』によって生まれる。想像力を働かせない、イメージが働かない、その対象の気持ちになって考えない『無知』から発生すると思う。

 羽川つばさじゃあるまいし、大体の人間は知ってることより、知らないことの方が多い。

 だから人なんてものは、大体が偏見で包まれてると思うが……。

 いやでも、この小説の中では森下さんが必死に言ってるのにも関わらず、文句いう医者は聞く耳もたずって有様でね。こういう奴、ネットでも山ほどわんさかいるけどさ。……いやいや、俺はここの部分で何でやたらと語ってるんだか。

 

 ともかく、繊細な表現でAV女優という職業で得た経験をわんさか語り、それでいて心の葛藤や、AV女優だからこそ知ることができたものもいっぱいあってね。

 一人の人間が、悟りを得る行程を読むような小説でした。

 いやほんと、面白かった。

(ちなみに解説もこれまた面白く、散々俺は『偏見』の目で見ないかびびっていたが、解説の出だしが「俺はAVが嫌いである」だ。恐ろしい人、花村萬月……)

 この解説も森下くるみの文才を見抜いており、冒頭のインパクトも含めて一読の価値あり。

 個人的に『細部が描ける人は伸びる』ってのは、勉強になった。俺は細部が描けてるだろうか。いや、描ける人間になろう。細かいとこも想像力を働かせたいね。

 以上、蒼ノ下雷太郎でしたぁ。

 した!