ブログ小説第一弾『 I’ll(アイル) 』 第一話「ボーイ(?)ミーツガール」 (カクヨム投稿作『7start 2.0』の番外編)
*ブログ小説第一弾。
カクヨムに投稿している『7start 2.0』の番外編です。
週に何回書けるかは、もう少し考えてから発表します。
(注意、スマフォでは表示が乱れると思われます)
I’ll
NO,1「ボーイ(?)ミーツガール」
0
好きな子ができた。
でも、叶わない恋だとあきらめていた。
だって、僕と彼女にはひどい隔たりがあり、
それが、どうしても僕の決意を鈍らせてしまうのだ。
だけど、……いくら時が経ってもこの恋心は消えず
解消されない想いだけが溜まっていく。
僕は、あきらめることをあきらめた。
叶わなくてもいい。
実らなくてもいい。
嫌だったんだ。
何も変えられないのこの現状を許容したくなんてなかった。
だから――
000
7start 2.0
●番組
ゲームプレイ
データ
オプション
アイテムを使用
終了
TVチャンネルの番組を表示します。
僕は番組からカーソルを動かし、ゲームプレイに移る。
7start 2.0
番組
●ゲームプレイ
データ
オプション
アイテムを使用
終了
アバターを使用してのゲームプレイとなります。
今じゃもう、ゲームプレイをする人は減ったと聞く。
だが、僕はこのゲームをプレイする。
そうしないと、彼女に会えないからだ。
そして、もし会えたら――
ゲームプレイ
●7start 2.0
●ニューゲーム
ロード
デモ
地下都市情報
族診断
新規ゲームを開始します。
――か、かかか、彼女と……できるなら……。
つ、付き合い……う、うぅ……。
7start 2.0
ロード中 ... 。 o ○
……長いな。
早くしてよ。
GAME START
あ、始まった――。
001
...肉体データを初期化。...機能性確保。
...肉体データのパラメーターをロード中。......能力、適正審査。
...OK。...地下都市、座標(×××、×××、×××)。
...誕生場所、三番街。
各種設定再調査...
設定クリア。
Leap of faith.
002
――三番街。
――B・893地点。一階、二号室。
――排出、組織編成、結合――骨格――細胞――血液――循環――脳――心臓――各種臓器――
――形成、完了。
003
■三番街、正門入り口付近の廃墟
……僕は、眩しい世界に目が焼かれそうになる。
「うわっ……」
全身で空気も感じる。
VRのとは、また違った感覚だ。
何と言えばいいのかな――こんなものがこの世にあったのかと、初めて知るような感覚だ。
(interface_guide)
気分は良好ですか?
(/interface_guide)
脳裏に文字が浮かぶ。
拡張現実の一種だ。ただ、映像的に浮かぶだけじゃない。
それはちゃんと文字を意識しなくても、頭の中にさらっと意味が入ってくるんだ。
「良好……だよ」
視界は、ようやく慣れてきた。
閉ざしていた瞼を徐々に開けていく……。
「……うっ……ふぅー」
今、僕がいるのはどこかの廃墟かな。
打ち放しのコンクリートの壁、床、天井。
ライトの光が、ガラスのない窓から入ってくる。
それはかすかなもので、どうしても室内には光陰の差異が生まれる。僕は、影の中にいた。そこで、全裸で立ちつくしていた。
(interface_guide)
初めまして、あなたの案内をいたします。
インターフェースガイドです。
(/interface_guide)
文字のニュアンスだと、女性的に感じる。
いや、偏見か。
しかし、簡素でありながら人間味も感じられるようなガイドだった。
両手両足を、ぱきぱきっ、ごきごきっ、引いて伸ばして。ストレッチ。
ふぅー、肉体を持つとこうも使い勝手が違うのかぁ。
僕は素足で床を歩く。
コンクリートのひんやりとした感触を受ける。
ガラスのない窓からのぞくと、壮大な景色が広がっていた。
段差の激しい三番街。それでも規則正しく建物を置こうとしたようだ。
建物は斜めになってる坂の上でも、なめらかにてっぺんのラインが描かれている。
それらの外壁を植物の蔓やツタが覆っても、道路を突き破って大木がそびえていても、人間が作った街らしい名残は存在していた。
(interface_guide)
まずは服を着ましょう。
(/interface_guide)
ガイドに注意される。
うしろを振り向くと、床に服一式が揃えてあった。
(interface_guide)
あなたの今の体は女性なのですから
なるべく気をつけた方がよろしいですよ。
(/interface_guide)
そ、そうなのか……VR暮らしだから、肉体を持つ人の常識がうまく理解できないけど、今後は気をつけなきゃな。
(interface_guide)
エッチ。
(/interface_guide)
「………」
いや、まさかこういう発言が来るとは思わなかった。
このゲームのAIって、こうも人間的なのだろうか。
……何のためかは、知らないけど。
ともかく、服を着ることにした。
下着を履いて、肌着を着る。次に黒いTシャツ、赤と黒のスカート。あと、灰色のパーカーも着た。
「もっと、個性的なのはなかったの。黄色みたいな派手なの」
(interface_guide)
黄色は三番街ではあまりよろしくないかと
(/interface_guide)
さらに、ガイドは付け加える。
(interface_guide)
地下都市では目立ちすぎるのは、あまり得策ではありません。
(/interface_guide)
<check>◆</check>
いくら強力な能力者でも
先手&奇襲を受けたらひとたまりもない。
</check>◆<check>
<check>◆</check>
だから、派手な格好は望ましくない。
</check>◆<check>
「わ、分かってるよ」
いや、本当は全然分かってないんだけど。
でも、確かに何度も番組を見てると強力な能力者が、つまらないことで死んだりしていたっけ。
……そうか、人間って急なことにちゃんと対応できるわけじゃないものな。そう考えると、ガイドの言うことも分かる気がしてきたよ。
うん、気をつけなきゃいけないな。
「………」
ふと、窓から飛び降りて、外を確かめたくなった。
ここは三階建てだったが、能力を使うとやっぱり問題なく着地できた。
(interface_guide)
能力をテストもなしに使用するのは危険です。
(/interface_guide)
「……いや、そうだけどさ」
また注意されてしまった。
いいじゃないか、失敗したら痛いんだろうけど。
そんなの自己責任だろ
(interface_guide)
ダメ。
(/interface_guide)
「うっ……」
予想外の即答に、思わぬダメージ。
本当にAIなのか、これ。
中に人間が入ってると言われても、納得できるよ……これって、悪いことなのか、悪くないのか……んぅ。
(interface_guide)
良好かと。
寂しいときは子守歌もうたえますよ。
(/interface_guide)
「だから、地の声に話しかけないでよ!」
心の奥までのぞかれてる気分だ。
その上で、僕の行動を随時チェックしてるのだから、これじゃ自由な行動なんてできないじゃないか。せっかく、ポイントを溜めてこの地下都市にやって来たのに。
僕はちょっと気分が沈み込みそうだ。
(interface_guide)
あなたが望むならジョークの一つや二つも可能ですよ?
(/interface_guide)
「そんなもの求めてどうすんの……」
僕が不満を抱いたら不安になり、自分の優位性をアピールしてくる。
ほんと、AIとは思えないレベルだな。
……ま、可愛げはあるのかな。でも、毎回何かあると注意されると思うと。
(interface_guide)
あ、何なら恋を成就する方法を伝授しても
(/interface_guide)
「OK。きみは良いガイドだね」
思わず、条件反射で了承してしまった。
004
「……はぁっ」
つい、後悔のため息。
(interface_guide)
ため息つかない。
そろそろ、ちゃんとした説明に入りますよ。
(/interface_guide)
と言われ、僕はしぶしぶガイドの説明を聞くことにした。
(interface_guide)
あなたが今、肉体を持っている場所。
ここは、地下都市と呼ばれています。
(/interface_guide)
<word>●</word>
<tikatosi>地下都市</ちかとし>
人類は争いの果てに地上を地獄にした。
それでも生きたいと願う人々は地下都市を建設。
限られた者だけを住まわせ、あとは地獄に置いて見捨てた。
空ではない空、真上を覆うのは灰色のコンクリート。
きんぴかのライトが太陽の代わり。
雨すら降らない、壁のような空。
<word>●</word>
「確か、核戦争か何かで地上を住めなくしちゃったんだよね」
僕のご先祖様になるのかな。ご先祖様、やんちゃが過ぎたんだね……。
僕は頭上を仰ぎ見る。
大昔なら青い空が見られたのかもしれないけれど、この地下都市にあるのはコンクリートでできた空に、ライトの光だ。
そう、見た目はあの廃墟と何も変わらない。
(interface_guide)
追記。
地下都市は六角形のカタチをしており、七つの街に分かれています。
(/interface_guide)
<check>◆</check>
右から時計回りに一番街、二番街と続き
</check>◆<check>
<check>◆</check>
最後に中央の七番街
この七つで七つの街
これが地下都市です。
</check>◆<check>
「そして、ほとんどの街は街を代表する族がいるんだよね?」
(interface_guide)
そーだよ。
(/interface_guide)
「えっ」いや、そーだよって。
ホントに、ガイドなのかこいつ。
人間が語りかけてるんじゃないよね?
もう、拡張現実じゃなくて僕の頭の中に住んでる気がしてきた。
<word>●</word>
<tribe>族</トライブ>
生まれた環境や目的によって組織化した集団のこと。
<word>●</word>
僕の不安も何のその、ガイドは僕の心の声も聞き取れるはずなのに。
というか、さっきはしたのに。
知らん顔で、さらっと単語を表示させた。
「族ねぇ……」
本音は、このガイドは何だろうと想いながらつぶやく。
(interface_guide)
人も生物の一種。
生物は利害のために集団を形成、行動します。
ここの辺りはVRの人には分かりにくいかもしれませんが。
(/interface_guide)
「……ん、そうだね」
だから、憧れたんだ。
集団生活。
未知の体験だからこそ、僕は体験したいと思った。
<word>●</word>
<nouryokusya>能力者</のうりょくしゃ>
通常の人間を逸脱した能力を起こす者の総称。
能力は人によって様々であり、
科学的に説明できる者から、科学で説明できない常識外まで様々。
<word>●</word>
(interface_guide)
能力者の説明も。
(/interface_guide)
「いいよ。もう、説明は終わり。さっさと行こうよ」
え、ちょっ――という文字が見えた気がしたが、僕は駆け足で彼女がいる三番街の族の拠点に向かおうとした。
そう、僕がこの地下都市に来たのは彼女に会うためなんだから。
(interface_guide)
まだ説明が終わって――
(/interface_guide)
「大丈夫だよ別に!」
伊達に番組の視聴歴は長くないんだ。ガイドの説明をいちいち聞いてられないよ。
僕は――
と、耳が何かを聴き取る。――近くで、銃声がひびいたようだ。
「逃げるぜ、ガウディ!」
「頼むぜ、ガウディ!」
「がってんだああああっ!!」
威勢のいい声も聞こえた。
僕は誘われるようにそちらの方に近づいて行く。
(interface_guide)
警告。戦闘している可能性あり。
注意した方が。
(/interface_guide)
だから、大丈夫だってば。
どうやら、銃声は先ほど僕がいた廃墟で起きたようだ。
僕が離れようとした瞬間、そんなことが起きるなんて。危ない、危ない。
「……ふふっ」
僕の能力は、自分で言うのも何だけど、かなり強い。
そう、いくら相手が銃を撃ってきてもへっちゃらなくらいさ。
僕は建物の中に入り、一階から各部屋ずつ確認して探し回って――捕まった。
「よっしゃ、人質ゲット!」
「流石ガウディ!」「子供にも容赦ねーぜ、ガウディ!」
相手はモヒカン頭の三人組。
筋肉は分厚く、上半身はほぼ裸のような格好――皮のベストだけを着ている。
三人組の一人はとくにモヒカンがでかく、こいつがこの中のリーダーだろうか。
やけに分かりやすかった。
「武器を捨てて、投降しろ!」
と、今度はまた違う声。
この三人組のように荒々しい声ではなく、少女のように可憐で繊細な――まるで、僕がここに来る動機になった。
恋する少女のような声だ。
「――あっ」
「その人質を離せ!」
拳銃をモヒカン頭達に向けて、僕を助けようとしている少女。
長い黒髪をうしろでまとめてニット帽をかぶり、服は黒のジャケットを着ている。背中に『V』と刺繍されたやつ。
下はスカートで、スパッツを穿いているらしい。太ももまで黒いのが見えた。
体格は僕の今の肉体と同じく、十四歳くらいで、小柄で、細身。見た目よりも小さく見える。しかし、拳銃をにぎる手はブレたりはしない。迷いなく、モヒカン頭のリーダーに向けられている。
「離せ!」
「やだね」
「やだぜ、なぁガウディ」「全くだぜ、ガウディ」
だが、彼女は僕のせいで敵を撃てないでいた。
しまった。
僕が迂闊な行動をしてしまったせいで、彼女にいきなり迷惑がかかってしまった。
<check>◆</check>
ホントですね。
昔の時代なら処刑モノです。
</check>◆<check>
「うぅっ……」
僕は思わず声をもらす。
それが恐怖によるものと勘違いしたのか、モヒカン頭達は調子に乗って歓声を上げる。彼女は――拳銃を床に置いた。
「へへっ、そうだ。その通りだ」
やめてくれ、違うんだ。
言い訳をしようにも言える雰囲気ではないし、説明のしようがない。
くっ、僕が悪かった。
僕が迂闊に行動したからこうなったんだ。
そんな僕のために、自ら武器を捨てるなんて。何てことをしてしまったんだ。
<check>◆</check>
次に男達は『こっちに蹴ろ』と言いますね。
</check>◆<check>
「こっちに蹴ろ!」
ガイドの言う通り、モヒカン頭のリーダーは彼女が拳銃を使えないようにさせた。
彼女は両手を上げて、降伏のポーズ。
「その子を離しなさい」
「やだね、誰が離すものか。お前が一人なのかだって定かじゃないんだ」
<check>◆</check>
ちなみに、彼女は一人で来ています。
Vの者はパトロールにあたって、二人一組を
なるべく近い位置で二組になるように配置していたらしいです――が
</check>◆<check>
しかし、彼女と組んでいた子供は殺されたらしい。
このモヒカン達とは別人らしいが、銃器の密売を計画していた奴らを取り押さえる際にやられてしまったようだ。
運が悪いことに、それから一旦拠点にもどるヒマもなく、モヒカン達が事件を起こした。
<check>◆</check>
いっけないんだ、いけないんだ。
</check>◆<check>
<check>◆</check>
迂闊なことするから、こうなるんだ。
</check>◆<check>
いじめないで助けてよ!
ぼ、僕はいいよ。ここでどうなっても。所詮はプレイヤーだからさ。
で、でも彼女――彼女は!
(interface_guide)
助けたいと?
(/interface_guide)
「……(こくこくっ)」
僕はうなづいた。
彼女――ニット帽を被った少女は、目は多少切れ目で、だが顔立ちはまだ幼く端正ではあるが鋭さよりあどけなさを感じる。だから、余計に僕の罪悪感は増した。
あどけなさに宿るそれは――力強い双眸は――本当に、僕を助けようとしていた。
この地下都市で。
いつ誰が死ぬか分からない、こんな地下都市で。見ず知らずの人間のために。
彼女は、真剣に誰かを助けようとしていたんだ。
「リス……」
不意に、僕は彼女の名前を呼んでしまう。一瞬、リスは自分が呼ばれたことに気づき目を見開いたが、初対面の僕が知ってるわけないかと、気のせいかと、また険しい目つきにもどる。
彼女の名前は、リス。
正確には漢字表記で栗鼠か。彼女ら、V(ファイブ)の者達は入団する前に名前がなかった場合は動物の名前をもらうことになっている。
(interface_guide)
だったら、自分の力で助けなさい。
(/interface_guide)
あなたにはその力があるのだから、と。
「――っ」
言われた通り、僕は裏拳をかます。
首に腕を回されて持ち上げられた少女がやった裏拳はモヒカン頭――屈強そうな男を仰向けに倒れさせた。鼻から血が出たようで、血飛沫は多少――空中に、飛び散る。
「ガウディ!?」「おい、ガウディ!」
敵は残り二人。
<check>◆</check>
あなたの能力は肉体の一部を硬質化させる能力。
(正確には運動能力も多少上がっています)
</check>◆<check>
残り二人が次に行動する前に、僕は男が倒れる瞬間――までに、彼の胸を足場にして、違う一人に飛びかかり、空中で回転蹴りをお見舞いしてやった。
「あぁっ!?」
残り一人。
銃声。
見ると、――リスが、蹴って捨てた拳銃をまた手にして発砲していた。
「――やるじゃない」
リスは、僕に笑顔を向ける。拳銃は敵に構えたまま。
「……ふぅ、クリア」
相手が動かないのを確認すると、モヒカン達のリーダーに手錠をかけて、蹴りで倒した男にも細い糸のようなもので腕をうしろに回して拘束させた。
(interface_guide)
ちなみに拳銃を取り戻したのは
彼女の能力のおかげですね。ほら、それより挨拶。挨拶。
(/interface_guide)
と、言われて僕はあわてて何を話そうか――クチが、どもってしまう。
「あ、あああ、あのっ」
「きみ、名前は?」
と、先に彼女の方から聞いてきた。
言おうとしたあいさつの定型文が霧消し――代わりに、パッと頭の中に思い浮かんだ単語をクチにする。
「アイル」
「アイル? 随分と響きのいい名前ね。英語?」
いつか、きみに出会いたいという一心でここに来た。
僕の目的――そして、存在理由。
アイル。
それが、僕がたった今つけた名前。
「え、あああ、そそそそああああ――」
どもった。
NEXT → NO.2「彼らの居場所」
本編『7start 2.0』