*注
スマホだと文字表記が乱れる可能性があります。
ちなみに、第一話はこちら。
I’ll NO.2「彼らの居場所」
005
むかしむかし、僕らのご先祖様はあーだこーだで戦争をしたんだって。
何でも、科学技術がどうたらこうたら。
個人で国家を転覆できるほどのものが広まってしまい、とてもじゃないが世界の安寧が保てるわけがなくて、科学者は厳しい適性検査を受けないとなれない職業になり、国によっては監視用の首輪をはめさせるとこもあって。
ともかく、地上は住めなくなってほぼ滅んじゃったんだって。
それでも、生きようとするのがいて。
彼らは地下にあるここに引っ越ししたんだ。
それが、地下都市。
<word>●</word>
<tikatosi>地下都市</ちかとし>
人類は争いの果てに地上を地獄にした。
それでも生きたいと願う人々は地下都市を建設。
限られた者だけを住まわせ、あとは地獄に置いて見捨てた。
空ではない空、真上を覆うのは灰色のコンクリート。
きんぴかのライトが太陽の代わり。
雨すら降らない、壁のような空。
<word>●</word>
<check>◆</check>
その生きようとした人々は。
限られた人だけだったそうです。
というか、選ばれたごく少数の人だけだったそうです。
</check>◆<check>
<check>◆</check>
あの当時の人類も結構人がいたはずなのに。
半分以上が選ばれなかったと言われてますね。
</check>◆<check>
だが、地下都市に住んでみたはいいが。
あまり時間が経たない内に、地下都市は荒廃する。
これまでの社会の閉塞感とは比べほどにならないレベルで、灰色のコンクリートの空が余計にそう思わせてるのではという意見もあったらしい。
各地で暴動、最低限あった治安は紙のようになり、一気にスラム化していった。
(interface_guide)
そして、その過程で「能力者」が生まれました。
狂う人が大勢の中、狂ってない人達ももちろんいて
狂ってない人達は狂う人達を殲滅しようとしたんですね。
そのための「能力者」。
(/interface_guide)
……どっちが、狂ってんだかと思うけどね
エトセトラ。
地下都市にはそのような事情があり、そんなことが全てめんどくさくなって、肉体を捨ててVRという仮想世界に逃げ込んだ輩がいた。
それが、僕のご先祖様なのだろう。
僕の場合は生まれたときからVRの世界で、あまり考えることも少なかったけれど。
そして、皮肉なことに仮想世界の僕らを愉しませるために、現実世界にいる人々を使って、ご機嫌を取るような番組が――存在したんだ。
それが――
006
「怪しい」
僕は初っぱなから疑われる。
モヒカン頭に襲われた廃墟の中。
打ち放しのコンクリートに囲まれて。
僕は、リスという少女に睨まれていた。
「すごく、怪しいんだけど。きみ、本当に七番街から来たの?」
じぃー、と可愛い顔で僕を睨め付けるリス。
長い黒髪を結って、その上にニット帽を被っていた彼女。
彼女は――ニット帽を外すと、髪をほどき、ウェーブかかったそれを散乱させた。
「暑い! 全くもう、変態犯罪者に手間かかって、ああもう暑い! 死ぬ! ファイヤーよ!」
リスは豪快に声を張り上げて、おまけに来ていたジャンパーまで脱いで、暑い暑いと、自分の手をうちわ代わりにしてあおいだ。
……何だか、イメージと違うぞ。
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大体、少年が少女に抱くイメージは
鏡のように実物とは正反対だとは効きますが
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うるさいよ。
違う、今のはふと思っただけだ。リスは、リスは違うさ。
<check>◆</check>
負け惜しみ。
</check>◆<check>
ぬっ!?
<check>◆</check>
本当は妄想していた彼女のイメージが壊れたらと思うとって
ビクビクしてんでしょ?
</check>◆<check>
……ぬ、ぬぅおわ。
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おもしろい、叫びをしますね。
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「うるさいよ!」
「は?」
失敗。
僕はよりにもよって、絶賛僕を疑い中のリスの前でうるさいよなんて言ってしまった。
しかも。
「私、今何かしゃべった?」
「え、いや、その」
「……ん?」
別に、何もクチを開いてないときにだ。
「何。私は突然強力な能力者に出会って、そいつを疑いの眼差しで見るのがそんなにいけないのことなのかなぁ? んぅ?」
「痛い! ごめんなさい、違うんです!」
背後を回られ、首を絞められて危うく――の一歩手前までやられる僕。
……念のために聞くけど、これってV特有の友好の証じゃないよね?
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あながち間違ってもいませんよ。
(/interface_guide)
はい?
と、首絞めが解かれると。
「まぁいいけどね」と、何故かそれ以上は追求せず、だった。
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普通は、見ず知らずの相手に背後を取らせないでしょ。
さらにいえば、首も絞めさせない。
だから、そこまで許したのはやはり危害を加える気はないんだなと判断したんですよ。
(/interface_guide)
え、えぇ????
僕は疑問符ばかりが浮かぶ。
そんな、そんなことで信用が得られるの?
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そういう場所なんですよ。地下都市は
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と言われたら、何も言い返すことが出来なかった。
僕は、もう一度リスの顔をちらちらとのぞいてしまう。
目は多少切れ目で、だけど顔立ちがまだ幼さを感じさせる顔の丸みやら、澄んだ瞳ってのがあるから、可愛らしさの方が印象的である。
こんな彼女が……まるで、異星人かのように思えてきた。
「――ったく、部隊はまだかなぁ。私一人じゃ、この変態共、運べないじゃない」
いや、このときの僕の違和感はまだマシなものだった。
このとき、彼女が行った暴挙と比べたら……まだ、かわいいものだった。
リスはジャンパーの下に着ていたシャツも脱いで、ブラジャーもつけていない胸をあらわに――。
「きゃあああああああああああああああっ!!」
「え、ちょ、何!?」
「え、いや、その!? きゃあああああああああああっ!」
「何なのよ、別にいいでしょ。女同士なんだから!」
「……はい?」
と、僕はそこで少し冷静になる。
女同士だから?
ん、何だろう。それが、何でこの場で好きな彼女が上半身を裸にしても大丈夫な理由に。
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ああ……肉体を持たないで、脳を培養付けにして
仮想世界暮らしのVR人には分かりにくいかもしれませんが
同性同士だと、恋愛関係にならない人もいるんですよ。
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……はい?
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それを主流派というと問題があるので言いませんが
あなたが思ってるより肉体って物事に左右されやすいんです
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……そ、そうなの?
え、じゃあ。
僕が――僕が、彼女といっしょにいたいって願う僕は……僕が、女の子を選んだのは。
だ、だい……大失敗?
<check>◆</check>
でも現に女の子だから
おっぱい見られたじゃないですか。
</check>◆<check>
そういうことじゃないでしょ!
もう、何で誰も言わないのさ。
アバターは可愛い子の方がいいかなって、つい思っちゃったじゃない!
<check>◆</check>
まさか、そんな失敗するとは思わなくてでして……。
</check>◆<check>
「あんた、何を一人でもじもじやってるの?」
と、リスが腕を組みながら眉間にしわを寄せて、一人悶絶している僕を見て、怪しいと苛立ち、その衝動から――僕の胸ぐらをつかんで――脱がしにかかった。
「ちょ、えぇっ!? 何するの?」
「うるさい! あんたも脱げば問題ないでしょ! 何よ、私の小さい胸がむかつくとでも、小さいって何よ!!」
「きみが言ったんだよ!?」
文字通り、本当に眼前で彼女はツバを跳ばして大声を張り上げる。
そして、何を言うかと思えばこんな言葉のキャッチボールだ。
キャッチボールというか、デッドボールの投げ合いのようだ……。
「いいから脱ぎなさい!」
「きゃー、きゃー!」
「脱げってば!」
「ぎゃああああああああああああっ!」
――と、僕らが騒いでたときにだ。
リスのうしろから強い衝撃が走り、僕らは二人まとめて、吹っ飛ばされてしまう。
「何やってるのよ!?」と、鋭い怒声。
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検索、どうやら彼女は
一応リスの上司にあたるそうですね。
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僕らの前に現れたのは眼鏡をかけた、ショートカットの少女。
歳はリスよりも二歳ぐらい上だろうか。頭一つ分くらいは背の高い子だった。
いや、リスはおそらく同年代と比べても小さいだろうから、もしかしたらイメージしてる年齢とは違うかもしれないけど。
(interface_guide)
いえ、大体同じ。16ぐらいですね。
(/interface_guide)
その、16ぐらいの女の子は。
眼鏡をかけた、16ぐらいの女の子は。
背中に『V』と刺繍された黒い生地のジャンパーを着て、腕を腰に当てて、機嫌悪そうな顔でリスを怒鳴りつけ。
「人が忙しいとこをわざわざ来てみれば、倒した相手が運べなかったんじゃないの!? 何、乳繰り合ってんのよ。このお馬鹿! 悪い子! 悪い子! しかも、こんな可愛い子を襲って!」
「ちょ、違う! 違うんだってば、聞いてよクジ姉!」
クジ姉?
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あだ名だと思いますよ。
彼女の名前は、鯨です。
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……豪快な名前だねぇ。
<check>◆</check>
人の名前をとやかく言わない方がいいですよ。
これでも本人は気に入ってるようですから。
</check>◆<check>
……と、早速そのクジラって子は僕に話しかけて来た。
「で、きみは何? えーと、被害者ってことでいいのかな。その……まさか、あたしの後輩が女の子を襲う奴だとは思わなくて……その」
「ち、違うんですよ!」
僕は慌てて訂正をしなくてはならず。
困惑。
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あ、そろそろタイムリミットだ。
これで今回は記録をやめよう。
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しかも、ガイドは何かつぶやいてるし。
「ともかく、この子もいっしょにアジトへ連れてった方がいいかな?」
クジラって子は言う。
「……はい?」
つづく。
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本編もよろしく。