*注意、スマホだと一部表記が乱れる可能性があります。
前回の話。
これまでのまとめ。
以下、本編。
I’ll (7start 2.0 番外編)
第五話 「死」
014
九鴉(クロウ)。
『7start(セブンスタート)』を見ると自然と目が彼にいってしまう――いくしかない、存在。
主役。
世の中には、主役になれる人がいる。
主役にしかなれない人がいる。
彼は、そういうタイプだ。
ようするに、僕が嫌いなタイプだ。
7start。
仮想世界に住むVRの人々が、まるでテレビ番組やゲームで仮想世界を楽しむように――現実世界を愉しむ番組。それが、この7startである。
皮肉かな、彼はこの番組で一つの物語の主役をはっている。
それなりに人気らしく、女性ファンからの声も多い。
……僕とは段違いの人だ。
015
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応答せよ、応答。
こら、リーちゃんが見てますよ!
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「……アイル?」
と、リスが僕の間近に迫ってきていた。
「どうしたのよ、蛇に睨まれたカエルみたいに硬直しちゃって」
その距離、わずか数ミリってもんじゃないかっ――。
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ドー、ドー。ドー、ドー。
おー、よしよし。
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……OK。
僕はここで他の物語のように慌てたりしないさ。
何、好きな女の子が目の前にあらわれたくらいで驚くものか。むしろご褒美じゃないか、それを何で叫び声を上げたり。
「おいコラ、聞けや」
耳をひねられた。
「あ、いたっ!?」
「いたっじゃないよ、全く……」
どうやら、彼女には僕の細かな理屈は通用しなかったらしい。
……いや、単に僕が黙っていただけだが。
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やーいやーい、フラれてやんのー。
フラれてやんのー。
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……近くにいたら、こいつも体を持ってたら廃棄物にしてやるのにっ……。
こいつ、人間味が出てるというか。性格が悪くなってるぞ!?
何だ、番組の都合上、ゲスなガイドしか作れなかったのか?
てか、フ、フラれてないし。クチに出してないし、そ、そもそも僕は。
<check>◆</check>
まーまー、ジョークですよジョーク。
</check>◆<check>
<check>◆</check>
それより、クジ姉がそろそろもどってきますよー。
</check>◆<check>
何だか、すごい誤魔化された感があるけど……。
「ほら、また何黙ってんの。あんたって、いつもそうなの?」
と、またリスが間近に迫ってきていた。
このときは流石に心の準備ができておらず、「わっ!?」と声を上げてしまった。案の定、「失礼ね」とうしろに回られ首を絞められる。
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仲がいいですねー。ほらほら、好きな子がくっついてますよ。
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――死にも近づいてるよ!
う、あっ、あぁぁ――テレビじゃよく見るけど、首を絞められてやばい感覚ってこうなんだ――か、体と頭が分離していくような――。
016
クジラがもどってきた。
「お、元気だねー。はっはっはっー」
「おかえりー」
「……はぁっ……はぁっ……」
ようやく離してもらい、生きてるってことがどれだけすばらしいのかを実感する。
<check>◆</check>
だから、よかったじゃないですか。
好きな子と密着できたんですよ、ウフフフ。
</check>◆<check>
……お前、あとで覚えてろよっ……。
「クジ姉、やっぱご機嫌だね」
「なっ、ちょっとやめてよねー。あたしは別にフツーだっての」
「へー」
二人は僕の前で、楽しそうに会話をする。一応、クジラは嫌そうな素振りを見せてはいるが、本気で嫌がってるようには見えない。むしろ、うれしそうにすら見える。そして、リスも妙にうれしそう。
<check>◆</check>
……あぁ、そうか。
そもそもマトモな会話をしたことがないから、こういうのに違和感があるんですね。
</check>◆<check>
う、うるさいな。
仕方ないだろ、VRなんて仮想の世界なんだから。
……人間のリアルな反応というか。
イヤならイヤ、好きなら好きって、やたらとはっきりしていたんだ。
分かりやすく、されていたんだ。
<check>◆</check>
ま、あの世界から抜け出さなきゃ問題ないですしね。
</check>◆<check>
僕は、ふと空を見上げる。
灰色の空、コンクリートでできたものだ――ライトがいくつも並んで、網の目のようで、それが燦々と輝かやいている。偽りの太陽。まぶしさより、閉塞感をおぼえる空。
「………」
リスや、クジラ。
そして、さっき会った二狗。
彼女達はこんな空でも平気なのかな。僕にとっては、異物で、圧迫させるものでしかない空だけど。
……いや、僕が見た青空も幻だけどさ。VRという名の。
でも、こんなのを常時見せられるよりかはいい。
「――おーい、アイル? アイルちゃーん」
「こいつ、またぼぉーとしちゃって」
と、二人が僕を呼んでいた。
「あ、す、すいません――」
「えいっ」
胸をもまれた。
「……いや、だからクジラさん。何故、胸をもむんですか」
「だって、応答しないしさ」
今、応答したでしょ。もむの止めてよ。離してよ。
素直な感想が頭に浮かぶ。
いや、はじめはスカートをめくられたりして、それでつい悲鳴を上げてしまったけど。胸をもまれるのは何というか。逆に冷静になるな。
だから、僕の胸をもむクジラが変な視点で見えてくる。
「……しかし、小さいな」
「うるさいよ!」
もまれた上に、酷評されてしまった。どんな、評論家だ。
<check>◆</check>
おっぱい評論家……ウフフッ。
</check>◆<check>
この子はもう黙ろうか……。
017
僕は思っていたよりあっさりと、Vに入団することになった。
てっきり面接の合否は後日ってことになるかと思いきや、クジラが平然と。
「あ、あんた明日からあたしの部下ね。もうこれからは他人行儀じゃないからよろしく」
「私は先輩、よろしく後輩」
と言ってきた。ついでにリスも言っていたか……。
「……あ、え、はっ、はい」
落ち着きなよー、と笑いながら肩を叩くクジラ。
<check>◆</check>
よかったですねー、あっさりと決まって。
</check>◆<check>
よかったけどさ。
何だろ、何だろこの違和感。
妙なとこがやたらとアバウトすぎて、ついていけないというか。
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大丈夫ですよ。それ以外は、割と厳しいですから。
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厳しい?
いずれ分かることなのかな。
確かに、リスだって出会った当初は――僕を悪い人から守ってくれたときは、毅然としていたし。
彼女らは真剣になると、豹変って言葉がふさわしいほど真面目になるんだろうか。
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真面目っていうか、そうしないと生き残れないからですが。
ほら、彼女らに置いてかれますよ
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慌てて、僕は足を急がせる。
018
三番街の、正門入り口付近にある飲食店。
会員限定のようだ。僕らはVの者だから入れた。
二階建てで、一階も二階も同じ広さ。だが、一階はただの受付で何もなく、二階からその広さを奮発して使っていた。
丸いテーブルがいくつも並び、中華料理屋のよう。
並べられる料理はここで採れた植物を使ってるようだ。てんぷらや、焼き料理、中には虫までメニューにあって驚いたが、ここじゃポピュラーなものらしい。
……絶対に食べたくないが。
「新人歓迎で、他の子達も来る予定だけど。……あいつら、結構ルーズだからね。仕事はちゃんとやるんだけど、いや当たり前か。あいつら、それ以外は積極的にサボろうってから」
「最近は歓迎会なんてダルイって若者が多いんだよ、クジ姉」
子供が何言ってるんだ、と僕は思ったが。そう思う僕もまた子供であった。
僕らは、三番街の拠点から足をそのままこの飲食店に向かわせた。
何でも、僕の歓迎会をやってくれるらしい。
――う、うれしいな。
と、最初は思ってたんだけど。
「何よ、こういうときじゃないと飲めないでしょ! 食べられないでしょ! 何よ、あたしだってリーダーだから色々気を使ってるのに。う、うぅ……」
「まーまー、クジ姉」
いや、単に僕の歓迎会だけじゃないらしい。
そうでもしないと、この子達はガス抜きするヒマがないのかな。
「………」
二階からは窓で外がのぞける。
ときおり、僕らのような子供達が走ってるのを目撃する。
三番街はまだ四番街から街を奪還したばかりだ。
そのため、四番街からの刺客も多いし、それ以上にここで悪質な企みをしでかす輩も多い。
「……えぇー」
ひどい場合には、天上にのぼる煙が見える。
爆発の、あとだろうか。
えぇー、あれって爆破テロ?
「気にしなくていいよ、本当にやばそうなときは全体通知の無線が入るし」
と、クジ姉は窓から煙を見てた僕に言ってくれた。
「そ、そうなんですか」
「プライベートは重要ってね。私達はそれぞれ細かく部隊分けされてるけどさ。それ以外にも、通信役が拠点の方にいてね。うちらに無線で細かな情報やアドバイスみたいなことを教えてくれるの。だから、本当にやばいときはその人から応援依頼も来る」
そんな、もんなんだろうか。
僕はついつい心配になっちゃうけど。
……何だか、彼女達は妙なとこでシビアなんだな。
僕を助けようとしたときは、あんなにも真剣だった。
今は、必要以上に関わらないようにしている。
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命を賭ける仕事ですからね。
毎回、高値をはったんじゃ割に合わない。
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今度は気のきいたことを言ってくれる。
いや、毎回そうだったならいいんだ。
でも、こいつは普段は僕をけなしたり、エッチなこと言うばかりなのに。
何だか理不尽だなぁと感じる。
ずるいというか、何というか。
「私も、九鴉さんといっぱい話せたら……ふふっ、それだけでもう死んでいいかも」
ふと、リスが突拍子もないことを言った。
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おやおや、死亡フラグ。
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不吉なこと言わないでよ。
「何よ、もう。あたしはそんなんじゃないわよ?」
「だって、クジ姉。うらやましいもん。私なんてさー、うじゃうじゃいる敵をなぎ倒さなくちゃだめだからさ」
「……おい、それはようするに二狗さんはファンが少ないって言ってんのか?」
一瞬だがにらみ合いになる二人。
いや、これも本気ではないようだから気にしないけど。
少しは現実世界の感覚に慣れてきた。
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大人の階段をのぼったんですねぇ。
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現実世界にいる人から見たら、階段どころか。階段についた段階かもね。
……でも、VRにいたんだからしょうがないじゃないか。
人間が当たり前のように思ってる行動や技術って、実は全然当たり前じゃないんだよ。
「……ねぇ、あのさ」
僕は、ふいに聞いてみたくなった。
「リス――」
九鴉の、どういうとこが好きなの? と。
そんなときだ。
019
突然、目の前に金属でできてるような固形物が――現れた。
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能力者――爆弾!
離れて!!
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――瞬間、まばゆい光が視界を覆う。
020
……う、うぅぅ……。
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起きて、起きてください!
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うすぼんやりとした意識……徐々に……視界がさだまってゆく。
揺れる視界……揺れる?
え、何で揺れてるの。
振動もくる。
というか、足が地についてないような感覚。
……あ、あれ? 僕、誰かにかつがれてる?
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あなたとリスは誘拐されたんですよ!
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意識がまだはっきりとしない中、ガイドの言うことをゆっくりと咀嚼する。
そして、はっと目が覚める――わけでもなく、頭が痛い。
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薬ですか。――しょうがない、ガイドが協力しますよ。
あなたは今誘拐されました。
あなたとリスは二人の襲撃犯により誘拐。
あのとき投げ込まれたのは閃光弾ですね。
近距離だと爆弾なみに危ないですが――クジ姉が守ってくれました。
彼女があなたとリスを床に倒し、覆い被さったんです。
で、クジ姉はまだ元気、他二人はぐったりしてる。
元気といっても閃光弾を間近で受けたのでどこかふらついていて――
襲撃犯二人にすぐ倒され、で、念のために暴れなさそうな
ぐったりしてるあなた達二人を誘拐した。
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僕の視界は次々に変わっていく。
そう、僕はかつがれてる。運ばれてるんだ。
肩にかつがれて、建物の屋上から飛び降りて路地を走り、さらにまた建物をのぼってと、やたらアクションの激しい移動を繰り返していた。
隣には僕らを誘拐した奴の仲間がいて、彼もリスを運んでいる。――彼女は、まだ目が覚めてないようだ。
……何。
何なの、これ。
何で、歓迎会をやっていたら誘拐されてるの?
意味が分からない。
何だよ……これ。
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過去、誘拐されてきた人達も同じ感想だったでしょうね。
意味が分からない。何で、誘拐されたのって。
……理由なんてないんですよ。ゴミクズはゴミクズなことを突然やる。
ご丁寧にそれを隠すために大義名分なんて飾りをつけて。
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「待てぇっ!」
驚いたことに、クジラの声が聞こえてきた。
顔を上げると、クジラが僕らを助けようと追いかけてきている。
敵二人は健脚で、段差をぴょんぴょん跳び、路地を颯爽と駆け抜けて、その速さは凄まじいのだが――クジラはそれにも負けない足を見せていた。
ぴょんぴょん跳ぶのも、路地も、追いついてきてる。
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でも、まだどこかふらついてます。
仲間が来るのを待った方が。
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しかし、クジラにはその気はないようだ。
今すぐに、僕らを助けることに集中している。
「――ちっ、うざいな」
と、敵の一人がふりむきざまに、何かしたようだ。
「え?」
クジラの首が、すぱっ――とはねられる。
「……クジラ?」
意味が分からない。
人って、あまりにも突拍子のないことが起こると、こんなふうになるんだね。
僕は、涙を流すヒマすらなかったよ。
NEXT → 「生きる?」
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