蒼ノ下雷太郎のブログ

一応ライターであり、将来は小説家志望の蒼ノ下雷太郎のブログです。アイコンなどの画像は、キカプロコンでもらいました。

僕は2000年を振り返ろうと思う(カクヨム投稿作「騒音の怪物」番外編) 第八話「007 彼女のこと」

 *「騒音の怪物」の番外編です。

 これまでの話。

「僕は2000年を振り返ろうと思う(騒音の怪物 番外編)」 まとめ

 

 前回の話。

「僕は2000年を振り返ろうと思う」 第七話「006」

 

 本編

 僕は2000年を振り返ろうと思う 

                 第八話「007 彼女のこと」

 彼女は女子校に通っていた。
 といっても山奥にある学園の深窓の令嬢というわけではなく、代々栄えてきた伝統ある家系の娘でもない。いたって普通の少女だ。父親は商社、母親は専業主婦。今となっては裕福に見えるかもしれないが、二階建ての白い住宅が印象的だった。それを当時の僕は地中海の白亜の建物に見えたのだけれど、それを知ったら彼女はどう思うだろうか。


「気持ち悪いわ」


 脳内でイメージしていた彼女が再び語りかける。
「あなたが生みだしたイメージでしかないのが言うのもなんだけどね。でも、あなたのその感想は気持ち悪いはね。当時、本人がどう思っていたのか。前回、枠を粉々にできたらいいのにと言った少女がよ? あんな白紙のキャンバスのようなのを見せられて、毎日毎日見せられて、よろこべるはずがないでしょ?」
 むしろ、あれをドス黒く塗りたくってやりたいと願っていたらしい。

 彼女の好きなアーティストはヴィジュアル系バンド。
「この頃って、もういたんだっけ?」
 いたよ。
 幼い頃にギャグ漫画がアニメ化したときのOPがヴィジュアル系だった。今はそのバンドはヘヴィメタになったけど。
「それは話が長くなりそうね。で、彼女はひたすらそういう曲ばっかり聴いてたの?」
 聴いてた。
 図書館に来てたときもカバンの中にはMDに好きなバンドのをいくつも入れていた。アルバム曲をまるごと入れたやつから、好きなバンドを複数ミックスしたやつと様々だ。
「今の子には分からない単語でしょうね。MDなんて、今じゃ骨董品よ」
 でも、当時は確かにあったものだ。
 当時は骨董品じゃなかった。
 いずれ、今僕が使っているスマホだって骨董品と言われるさ。
「ただ、それが自分の番になっただけ」
 そう、2000年はもう過去の話だ。
 ノストラダムスの予言が消費者によって消費され、コンビニのおにぎりのように信じられる・信じない関係ないしにネタにされたのも忘れ去られ。
 結局は、過去になってしまった。
 その数年前にはオウムの事件があり、あの未成年が犯した殺人事件もこの頃か?
 結局はどれもこれも過去になってしまった気がする。
 思い出したくないのはみんなそうだと思うし、思い出していいものかというのもある。
 だが、どうだろうか。
 ふと、振り返ることは必要なんじゃないか。
 多分、あのとき起きた事件はどれもこれも、いずれまた起こるかもしれない事件なんじゃないのか。
 昔、歴史の先生が言っていた。――あれは、中学だったか。いや、高校だったかな。正確なのは忘れたが。

『人のやることなんてのは、人種・国籍・民族、あまり関係はない。だから、大抵はどいつもこいつもやることは同じなんだ。だから、過去に起きた事件や戦争を見れば、今後起こることも大体起こる』

 今の信仰は間違ってると怒り、暴動を起こしたらやり過ぎて信頼してた者からさえも見放される。

 現実の世界に絶望した者達が一箇所に集まって生活をする。閉ざされた生活は熟成し、絶望は革命という希望に変えて、テロを起こそうとする。

 日常の不満がたまりたまり……それの行きつく果てが、本当は過去に散々行われてきた、ようするに歴史において大して珍しくも何ともない――犯罪。

「もしかして、きみが目指すことも歴史においてはありきたりのこと――この退屈なループした生活のようだと考えたことは?」
 僕はどっちの彼女に聴いたのだろう。
「ないわ」
「あるわ」
 どっちの彼女が答え、どっちの彼女が答えたのか。
「本人にとってはすごく大事な出来事だったとしても、周りから見たらひどく陳腐なものでしかない。それを物語と呼ぶ人がいるのかもしれない。物語って、そういうものよね。その物語を読んでない人から見たら、ただのインクにしか過ぎない。誰かが起こしたただの行動に過ぎない。音に過ぎない、映像に過ぎない――あなたは、それでも書きたいと思う?」
 物語が人を救うなんてのは戯れ言だ。
 凶悪犯罪が起こる度にテレビの学者が発症する、あの創作物のせいだ病、を推奨するわけじゃない。
 だが、安易に否定できるとも思えない。
 ある創作物を見て希望を持ち、力をもらう人がいる。
 そんな人物がいるとするなら、その逆もあるんじゃないか。

 ありうるんじゃないか
「小説家って何なんでしょうね」
 小説は言葉だ。文字だ。
 ひどく原始的で、メディアとしては映画や漫画や音楽にかなり劣る。
 見る方のリテラシーを求める、読者優先のメディア。こんなもの――こんなもので、何が変えられる。
「でも、小説はだからこそより奥深くにいける」
 文字しかないからこそ。
 それしかないからこそ。
 より読者は想像しようとする。
 想像してしまう。
 そのとき、読者と作品は結ばれて。
 他のどんなメディアよりもより心の奥深くに侵入できる。
「そこまでいったら、もう一種の革命だと思わない?」
「思わない」
 僕はそんなつもりで小説を書いてるんじゃない。
「じゃあ、あなたは一体どんな理由で書いてるの」
 彼女は聴いた。

「――は、そのためだけに生きてるわ」

 このとき、僕の耳が破裂しそうだったのは何故だろうか。
 もしかしたら、このときようやく彼女が一人称を。
 いや、使っていたのかいなかったのか――。
 ともかく、僕はとてつもなく耳をふさぎたくなった。


「本来、何かを創作するって――それほどゴミクズだってことじゃないの?」

 

 つづく → 第九話「008 学校2」

 

 

 

 本編。

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