蒼ノ下雷太郎のブログ

一応ライターであり、将来は小説家志望の蒼ノ下雷太郎のブログです。アイコンなどの画像は、キカプロコンでもらいました。

I’ll 第九話「新手」 (7start 2.0 番外編)

 *はじめに

   スマホだと一部表記が乱れる可能性があります。

 

  これまでの話。

  I’ll まとめ (7start 2.0 番外編)

 

 

  前回の話。

  I’ll 第八話 「殺す」 (7start 2.0 番外編)

 

 本編

   I’ll 第九話「新手」

 

 029

 

 ――VR。

 そこで生まれ、育った。
 仮想世界を体験したことのない人は理解しがたいかもしれない。
 はじめ――僕もよく理解してなかった。
 今この場所が――VRだということが、よく分かっていなかったんだ。

 

 VRの人はまず二十一世紀の日本をモデルにした場所で、教育を受ける。
 何故かって?
 そのときが一番平和だったからさ。ニュースを騒がすネタは多かったらしいが、逆をいえばそれだけだ。
 だから、VRで生まれた人間はまずそこで教育を受ける。――生まれる、といってもほとんど脳みそだけのような存在らしいけどね。

 で、二十一世紀の日本をモデルにした仮想世界でAIによる家族もいて、友達もいて――途中まではここがVRであることを教えられながら穏やかに暮らしていた。
 だが、十歳を超えた辺りからか。徐々に人類は衰退し、今じゃ地下都市にいることも教え始めた。
 そして、十四歳になる頃にはほとんど気楽に『7start 2.0』をプレイも視聴もできた。


 VRの教育の中で、僕はコミュニケーションに失敗した。
 だから、難易度を下げて再び教育課程にもどったのだが――そのときだったか。
 VRにいる人なりに辛かったときに、地下都市の映像を見たんだ。正直言って、仮想世界ごときよりもすごいことが広がっていた。そして、悲惨なことが起きていた。
 だが――それでも立ち上がろうとする者がいた。
「……あっ」
 リスだった。

 

 030

 

 僕は、リスの姿を探す。
「……リス……」

 閃光弾。
 僕らを拉致したときに使ったやつだ。
 咄嗟に耳をふさいで目を閉じたあと、床にふした。あふれんばかりの光が辺りを照らす――ふさいでいても、耳がキーンッとなった。

 

               (interface_guide)
             あなたのそばにいますよ。
               (/interface_guide)

 

 と、ガイドが語りかける。
 ……言われて、気付いた。
 手でふれてみると、いつものニット帽にふれていた。そして、予想よりも小さな背中にもふれてしまう。発作が起きた状態で閃光弾を喰らい、大分弱っていた。
 一瞬、僕が守ってあげなくちゃと思うのだが――
「外に出よう」
 だが、そんなヒマはない。僕が彼女を守る?
 おこがましいと言わんばかりに彼女は作戦をクチにする。
「次は……多分、爆弾が来る」
 そして、彼女はおそらく能力を使ったのだろう。
 轟音。
 小屋全体がゆれて、衝撃が広がった。
「私の能力は念力で遠くのものを動かしたり――衝撃を与えたりする。イメージ的には空気を動かすってのが分かりやすいかな。だから、投擲された爆弾もはじき返すことは簡単なの……」
 荒い呼吸だった。
 とてもじゃないが、二度目はないぞと言ってるようだ。
「拳銃は……一丁。一階に下りよう」
 そして、僕は彼女に肩を貸しながら一階に下りる。
 出口は二つ。玄関から続く入り口と、裏口。
「裏口から行こう……待ちかまえてるかもしれないけど」
 私がフォローする。あんたは先に行って、と言われる。
 僕は首をかしげるが。

 

                (interface_guide)
           裏口を開けたあと、彼女は発砲します。
        その間に、あなたは森の方へ駆けろってことでしょ。
                (/interface_guide)

 

 ああ!
 そういえば、『7start 2.0』の番組でも似たような場面あったな。そういうことか。
 銃を撃ってる間は敵は物陰に隠れるだろう。だから、その間に移動すればいいってわけか。
「本当はそれ……拳銃でやることじゃないけどね。ともかく、行くよ」
 裏口の前に移動し、僕はうなづく。
「1、2の3で行って。……1――2――3!」
 裏口のドアが開かれる。僕は駆ける。
 背後から銃声。薬莢もすぐ近くに飛び散っただろう。僕は一目散に駆け出した。
 彼女を助けるどころか、彼女に助けてられて情けない限りだが――

「う、うわっ――!?」

 背後から、僕を持ち上げるような熱風と衝撃が走る。

 

                (interface_guide)
                 ば、爆発――
                (/interface_guide)

 

 そう、背後にあるもの――リスがいた小屋が爆破された。

 

 030

 

                <三人称視点>

 

 彼――便宜上、透明男と名付けようか。
 透明男は、閃光弾を投擲したあと、次に手榴弾を投げた。彼らの族はひそかに武器商人と交渉し、いくつか武器を購入していた。これもその一つだ。いつもは、もっと天然の眠り粉の入った球などを使うのだが。


 彼らが投擲に使ったのはパチンコ――スリングショットと呼ばれるものだ。
 彼らの住む場所は天然ゴムが採れる。
 そして、運命的な出会いで族の長はゴムを自在に強化できる能力者だった。
 そのため、他のどんなものよりも威力が強く――ゴム紐は拘束用の縄にもなるなど、応用力が高い道具を生みだしてきた。
 さらにいえば、これらの道具は諜報活動や暗殺――目立つ武器を持っていては怪しまれる場面でも役に立つ。
 普段はズボンのゴム紐などに誤魔化すことが可能で、いざとなれば武器として使うことができる便利道具。そのため、普段の攻撃も拳銃ではなく、スリングショットによるものが多い。
(一度目は油断した。窓に爆弾を入れてやろうと思ったが、能力者がいたのか)
 透明男は、相手の能力を推測する。
 一体、どのような能力で爆弾をはじき返したか。
 念力?
 風をあやつる?
 もしくはバリアのようなものを発生する?
 いや、これだけじゃ何ともいえない。ともかく、先ほど木の葉や枝を浮き上がらせることで自分の姿を鮮明にしたのといい――ただ者ではない。ただの子供ではない。
(俺の能力まで知っていたのか……これも能力によるものか。いや、違うか。単に俺が能力を使って外に出たとき、起きていたのか)
 ん?
 と、そこで透明男は考える。
 もしかして、物音がして自分が外に確認しに行ったのも、彼女らの罠だろうか。
 ……なるほど、と男は表情が険しくなる。
 それほどの相手なら油断はできないなと。
(だが、爆弾は何も窓から放てないわけじゃない)
 リスは念力で爆弾を弾き飛ばし、衝撃を和らげると同時に距離を保ったが。
 爆弾の衝撃自体は簡単に小屋を破壊する――だから、リスが放たれたのさえ分からないような壁や屋根に――爆弾を放てば。
「さよならだ」

 

 031

 

 ……僕は、燃え盛る小屋に唖然としていた。
 しりを突き出して倒れていたのから起き上がり、クチをあんぐりと開けて。
「……リス?」

 

               (interface_guide)
               頭を硬くして!
               (/interface_guide)

 

 と言われ、無意識に僕は能力を使う。
 乾いた音が鳴り響く。
 首が痛い――いくら頭を硬くしても、衝撃は関節にも伝わる。
「――っ!?」
 撃たれた。
 僕は頭を撃たれた。衝撃で地面に倒れる。

 

               (interface_guide)
               ヘッドショット。
              いい腕をしてますね。
               (/interface_guide)

 

 敵の攻撃らしい。
 爆弾といい、この射撃といい……何だよ。何だよこれ、どんな無理ゲーだよ。
 強すぎだろ?

               (interface_guide)
       当たり前でしょ。あっちだって命を賭けてるのですから。
        ……早くしないと、本当にリスが死にますよ。
               (/interface_guide)

 と言われ、僕は慌てて反応する。

 

               (interface_guide)
             生体反応は残ってます。
        おそらく念力で衝撃をガードしたのでしょうね。
      ……ですが、そのせいで余計に体力を消耗してしまった。
             いや、それだけじゃない。
               (/interface_guide)

 

 彼女は冷酷な事実を告げる。

 

               (interface_guide)
        これは……正直言うと、規定違反になるんですが。
         ……教えます、新手が近づいてます。
       距離はまだ二~三キロといったとこでしょうか。
        ですが、猛スピードでこちらに向かってます。
              (/interface_guide)

 

 ……僕は、あまりの現実の圧倒的な力に言葉が出なかった。
 リスがやばい。
 そして、敵は的確に僕を撃った。
 で、新手?
 ……どうしろってんだよ。
 無理じゃんか。
 こんなの、どうやったって無理じゃんか。

 

              (interface_guide)
       立ち上がって。ほら、早くしないとリスちゃんが。
         ――どうしたんですか、アイル!
              (/interface_guide)

 

 はじめて……ガイドが僕の名を呼んだ。
「……っ……うぇ」
 泣いていた。
 本当に情けない。手足はブルブル震え、泣きべそをかいていた。

              (interface_guide)
         どんなに自信がある人も現実に来ると。
      肉体を持つようになると途端今のあなたのようになります。
           ――ですが、いいのですか?
           このままじゃ、リスは死にますよ。
              殺されますよ。
          ……本当に、それでいいのですか。
              (/interface_guide)

 

 いいわけないだろ……。
 僕は……僕は、本当に彼女のそばにいることを望んだんだ。好きだったんだ……あの、辛かった日々、彼女のがんばる姿を見たから、僕もがんばろうって思ったんだ。
 それなのに、それなのにこれって……あんまりだろ。

 

              (interface_guide)
          ……あなたは例えここで死んでも。
          VRでまた生活することができる。
           本当の意味での死ではない。
      ……でも、リスは違いますよ。クジラだって、違いますよ。
              (/interface_guide)

 

「……っ」

 

              (interface_guide)
     人殺しを躊躇なくできる人物になれとは言いません……。
           でも……でも今は……今は……。
              (/interface_guide)

 

 今、今ここで戦わなかったら――間違いなく、リスが死ぬ。
「……うっっ」
 僕は右手の親指の付け根を強く噛みつく。
「……っ」

 

              (interface_guide)
               ……アイル。
              (/interface_guide)

 

 嫌だ。嫌だった。
 死なせたくない。失いたくない。
 リスを――これ以上、誰かを死なせたくなんてなかった。
 何より。
「……死にたくない」
 僕も、死にたくなかった。
 VRだとか、偽の体だとかどうでもいい。
 今、今ここでこうやって息してるこの体が、死ぬのはごめんだ。リスとイチャイチャもできないじゃないか。
「協力してくれ……お願いだ」

 

              (interface_guide)
               アイル……。
              (/interface_guide)

 

 その一言は同意と見なしてもよいようだ。
 彼女は、即座に作戦の案を提示する。さらに拡張現実で、ここに近づきつつある新手がここに来る時間を推測していた。
 おおよそ、あと十分そこらだと。
「………」
 ・小屋にいるリスを助ける。
 ・そのためには撃ってきた敵をどうにかしなきゃいけない。
 ・そして、これらをなるべく新手が来る十分以内に解決したい。
「やってやるさ……」

 

 

 NEXT → 第十話「決着」

 

 

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