さよなら、Detritus
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やっとかよ、と思ったみなさん。
はい、つづきです。
主人公は『芸術』によって己を支えていたんですね。
ロシアの小説家、いや当時はソ連なんですかね。ソローキンの言葉を引用すると
人間が唯一、完全に自由でいられるのは芸術の中だけだ。
というのがあります。
いやまぁ、ぶっちゃけ宇多丸さんのラジオで伊藤総さんが引用してたんですけどね。はい。
でも、この言葉は俺の中にもひびきました。
確かに、本当に自由でいられるのは『芸術』の中だけだと。
正直、現実の世界ってめんどくさいことだらけじゃないですか。
家があるし。
学校あるし。
会社あるし。
外に出たら街があるし。
お金が必要だし。
何かするにも細かな制約があって。
あぁ彼女つくりたい。でも、恋人なんてどうやって出会えばいいのか。つくればいいのか。
もう、めんどくさいことだらけじゃないですか。
『さよなら、Detritus』の主人公も、現実をそう思っていました。
この小説の世界では、アジアやアフリカなどの有色人種の国々が発展して、西洋諸国といざこざある世界観です。
そして、主人公は白人との日本人との間に生まれたハーフです。
一応、この小説では日本はまだ西洋諸国と交流があって、他の国々とパイプ役になってはいます。
ですが、それが逆に和平の象徴として見られ、だからこそテロリストに狙われました。
テロリストの犯人は西洋人で、彼らは東京駅に爆弾をしかけ、大勢の人を殺しました。
おかげで、日本は奴らを許すなという声が高まったり、逆にその声を止めるために活動していた人々も活気づいてきて止まらなくなって――。
昔からとやかく言われていた主人公はここで、たまらなく嫌になります。
そう、東京駅には彼の父親もいたんですね。そして、巻き込まれた。
だから、主人公は日本を守るためにスパイになったという。
これだけ見ると強い意志を持った人物に思えるかもしれません。
実際、精神が強いでしょうね。
でも、人間ってそれだけじゃないのがほとんどでしょう。
完全に強い人なんていない。どんな人でも、案外支えとなるものがあったりします。主人公にとって、それが芸術だったんですね。
芸術は、つくられた世界だから。
そう言ってしまえば、芸術とは一種の仮想世界です。
仮想世界として最も古く世界に広まっていたのは間違いなく小説です。
だから、主人公は小説が好きでした。
『嘔吐』とか読む人ですからね。
でも、皮肉なことに彼の敵になるのは彼が最も愛した小説家でした。
さよなら、Detritus 語り 4 につづく