*『7start 2.0』の番外編です。
本編なしからでも、一読できるようにしてはいます。
また、スマホだと一部表記が乱れる可能性があります。
これまで。
『 I’ll(アイル) 』 第一話「ボーイ(?)ミーツガール」
本編。
I’ll 「彼らの居場所 2」
007
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三番街の族は、基本ピラミッド型の権力構造をしています。
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と、ガイドは言った。
一番上が『ナンバーズ』と呼ばれる存在で、彼らは『V』を結成した初期メンバーであり、全員が高い権力を持つのだが――実質的に、指導者としての能力が高い、二狗(にく)という人物がリーダーとして働いているようだ。
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Vは猟奇的という噂も多い族ですが、中に入ってみると
どこか牧歌的でもあり、縛りも少ない自由な族らしいですよ。
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と、ガイドは言っているのだが……。
「あんたは! 何で、いつもこうなの!」
「……ぐぎがががっ……」
眼鏡をかけたショートカットの少女――クジラに、うしろから首を絞められている少女――髪をほどき、ウェーブがかった長い黒髪を揺らしていた、リス。
見た目はかわいらしい少女が、仲良く二人で戯れているように……見えないね。あきらかに首絞めてるね。
「いい!? 小さな女の子に手を出すなんて犯罪よ、犯罪!? 分かってるの?」
「ぐぎががっ……」
リスは泡を吹きそうなほど、ギリギリの状態である。
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あなたもよく聞いておいた方がいいんじゃないですか?
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……ど、どういうことだよ。
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ロリコン。
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うるさいよ!
こ、こいつ……本当に人工AIのガイドなんだろうか。
VR内ではこんな奴、見たことないぞ。
い、今、馬鹿にされたよね? 僕、人工AIに馬鹿にされたよね。
<check>◆</check>
事実を言ったまでです。
</check>◆<check>
<check>◆</check>
小さな女の子に手を出すのは犯罪ですよ。
ですよ。
</check>◆<check>
……いや、僕の実年齢は彼女とそう変わらないよ!
……いや、そういう問題じゃないのかもしれないけど。
「ほら! 早く、この子にあやまって! ごめんなさいねぇ、うちの子が。いきなり露出した挙げ句、脱がそうとしちゃって。普段は悪い子じゃないのよ? あ、あたしは鯨ね。鯨って知ってる? こう、昔海にいたっていうの」
「は、はぁ……」
僕が思っていた以上の言葉が放たれたので、僕は矢面に立つように黙って聞くことしかできなかった。というか、途中から聞くことも適わなかった気がした。
「ほら、あやまって。ごめんなさい! おっぱい見せてごめんなさい! おっぱい見ようとしてごめんなさい!」
「………」
いや、リスの意識がほとんどもぎ取られている
その状態で彼女の意志関係なく、謝罪させるのだからハードコアな先輩だ。
しかし、悪い先輩には見えないかな。
「――あら」
クジラは僕の胸にふれてきた。
「………」
「へー、へー」
いや、何故僕の胸をさわる。
今さっき、ごめんなさい言ってたじゃないか。
「な、何故おさわりに?」
「え、あぁ、ソーリー。何だか、一瞬男の子のような感じがしたから。……違うわよね? 女の子よね?」
なるほど。
いや、だからって胸をさわる理屈はまだよく分からないけど。
でも、……相当鋭い人らしい。
僕は、本来ならVRでは男だったはずだ。
それが初めての肉体経験だったから、かわいいって理由で女性を選んでしまったのだ。
「……たまに、言われるんですよ。僕って、周りが男ばかりだったから」
「あ、僕っ子か」
「………」
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ちなみに、僕って一人称は普通男が使うものですよ。
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それを始めに言ってよ!?
いきなり大ピンチだよ。
僕、まだVにも入ってないのに大ピンチだよ。
しかも、おそらくは能力とか関係なしに勘でバレそうだよ?
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これで男だとバレたら、入団は絶対ありえませんね。
この変態! って、一発ビンタもらえますよ。よかったですねぇ。
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……こ、このっ。この、ガイド。
段々本性をあらわしてきやがった。
すごい、すごいっ、挑発してきやがるぞ。
くそっ、テレビ画面越しだったら、これはコメディだったんだろうけど。
自分で体験してみるとサスペンス以外の何ものでもないな、これ。
――ぺらっ。
「うん。女の子っぽいわね」
クジラにスカートをめくられる僕。
「……い、いやあああああああああああああっ!」
「お、女の子らしい? いや、偏見かな。ごめんね」
「ごめんで済むかぁあああっ!?」
結局、僕の性別疑惑はそれで不問に終わった。
それだけで済んだのは大変ありがたいことだったんだけど……何だろ。
大事なものを失った気がしたのは気のせいだろうか。
008
――彼女達が使うのは、ノザキ邸と呼ばれていた建築物らしい。
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もっと前は、児童が通う学舎だったらしいですね。
皮肉にも血を血で争う戦いをして、ようやくその役目が復活しそうです。
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紆余曲折あったが、僕はクジラやリスにノザキ邸を案内されることになった。
ノザキ邸――リスが所属している、三番街を代表する族『V』の本拠地。
「……へぇ」
長い階段を上ると、その景色が一望できた。
校門前から、各地で作業をしている人々が視界に入る。
いるのは子供達ばかりではなく、二十代ぐらいの大人や、妙な格好をした――緑色のロングコートを着て、ガスマスクを被ったのもあった。
……あれは、機械族(キカイぞく)だろうか。他にも、違う族の者がいるようだ。
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ぶっちゃけ、三番街は人材不足。
子供達だけじゃあまりにも数が足りないし、
何よりスキルもない。
だから、以前から協力していた族などを呼び寄せてるらしいですね。
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地下都市は、六角形のかたちをしている。
右から時計回りに一番街、二番街とつづき、最後に中央の七番街――
そして、三番街は右から時計回りに三番目にある街だ。
この街は、緑が多く、肥沃ある大地なため環境としてはとても恵まれていた。
だから、ここを求める族は数多く――ちょっと前までは、ここは他の街の族が占領していたのだ。
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具体的に言うと四番街の『牙』。
彼らは黄色い布をトレードマークにしてます。
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だから、最初に黄色はやめた方がいいって言ったのか。
……ガイドのおかげで助かったな。
もし、出会い頭に僕が黄色い布を巻いていたら、リスはどうしてたかな。
助けてはくれず、むしろ僕を拳銃で撃っていたかもしれない。
「あんた、ちゃんと案内してあげなさいよ?」
「わ、分かってますよぉ」
僕の前を歩く二人、クジラとリス。
彼女らは今は楽しそうに笑い合っているが、もしかしたら、牙の者と出会ったら豹変しちゃうのかな。
「いい? 本来なら厳重な検査の上にあんたは連れて来られるんだけど……今回は特別なんだからね」
校舎の中に連れられ、受付フロアのような広めの空間に案内される。
外観はコンクリートの無骨な感じが目立つものだが、中はコンクリートではなく床に木材を敷いてクラシックな雰囲気を醸し出している。天井にはどういう意味があるのか分からないプロペラが回り、座席に数名の者達が座って何かを待っている。
「まぁ、身体検査はもうしたしね」
「クジ姉は黙ってて。いい? これから、ある人にあなたを紹介するけど。特別だからね。特別だかんね。いい? OK? アンダースタン?」
「お、オーケー」
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英語の使い方がかわいいですね。
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うん、うん。
僕は心の中でうなづく。
……しかし、本当にセキュリティが薄いように思う。
僕が入団希望者って話をしたら、すんなり重要人物――というか、採用担当の人に会わせてくれるらしい。いいのか。僕でさえ今の僕のことを、得体の知れない子供と思うのだが。
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いえ、正直言うとそれには理由があります。
あなたが特別じゃなく、一見Vはあけっぴろげなとこがありますが。
それにはちゃんと理由があるのですよ。
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ん???
僕は馬鹿みたいに疑問符を浮かべてしまう。
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行けば分かりますよ。
相手は、この街――いや、地下都市で読心能力者としては、
おそらく最強ですから。
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……さ、最強。
ごくっ、と、僕は唾を呑み込んだ。
「――あ、そろそろいいみたい」
クジラは通信機器で連絡を取り合っていた。
「それじゃ、行こか」
「いい? くれぐれも調子に乗らないでね」
僕は、二人に連れられて案内される。
「………」
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緊張しすぎでしょ。
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仕方ないだろ。こ、こんなのVRじゃなかったんだから……。
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