*カクヨムに投稿している「騒音の怪物」の番外編です。
これまで。
僕は2000年を振り返ろうと思う
004
翌日、また図書館できみに会った。
「……お互い、ひまなのね」
そして、彼女に言われたのが……確か。
ページ数枚を見て何を言えというのですか。
だったか。
「そりゃそうでしょ」
それから、僕はまた小説を書いて彼女に見せたんだ。
そしたら、何枚書いても話が完結してないなら同じと言われた。
「何枚書いたかは……おそろしいから聞かないわ」
次の日は終わらせて書いた。
「誤字脱字が覆い。てにをはが、意味分からない。あと、物語になってない」
「――って、ようやく基礎的なことを言われたのね」
僕は過去を思い出そうとする。
その際に脳裏にいるのは、今の僕が思い浮かべる彼女の姿であり、そして過去の姿である彼女だ。今の僕が思い浮かべた彼女は一人称がない。喪失ではないのだろう。ないのだ。それは、僕が数少ない情報から彼女を組み上げたからであって。
そんなものからできるのは、どうしても歪な像になってしまうから。
「で、それからあなたとの交際が生まれたの?」
「交際というか関係だよ。すごい脆弱な関係さ」
僕はすでに誰と誰が会話してるのか、書いてる自分自身でさえあやふやだ。
文字が突如空中に浮かび上がって、生まれたばかりの子鹿のように覚束ない足ながらも飛び立ってしまうような――僕は、パソコンのキーボードを打つ。昔だったら、ペンを走らせるが、原稿用紙が進むことをあらわし、いや今じゃ原稿用紙というのもおかしい。あるのは、液晶ディスプレイの中にあるデータが増えていくだけだ。
データが増えていく。
「彼女のこと、好きだったの?」
分からない。
好きだったのかどうか。
でも、彼女に認められたかったのはある。他の誰、でもない。彼女の言葉が聞きたかった。
「そういえば、あなた。他の人にも小説は見せなかったの?」
「友人に見せたら褒めてくれたよ」
おもしろかったって。
その頃は普通のライトノベルを書いたんだけど。
「普通のライトノベルってまたあやふやな表現」
でも受け入れられたよ。
だから、その原稿を焼いて捨てた。
「過激かっ」
過激さ。
そうでもしなきゃ、やってられなかった。
こんなもので満足されたら、こっちだって困ると。
「ライトノベルが嫌い?」
「枠の中で安寧してるのが嫌いなんだ。ライトノベルでもとんでもないことを、やる人はいる。そういう人は好きだ」
「言い方変えてるけど、嫌いって言ってるようなものね……でも、それが人生なんじゃないの? 生きて行くには、どうしても納得しなきゃいけないものが」
「妥協しなきゃいけないものが?」
思わず、苦笑してしまう。
「むかつく、笑い方ね」
「むかつく、笑い方さ」
そうでもしなきゃ、やってられない。
「だったら、サラリーマンになればいいのに」
別にその生き方が悪いわけじゃない。
むしろ、好き勝手に小説家をやってる奴の方が問題だ。
社会という枠組みから勝手に外れ、自由気ままにやってる奴ら――
「そうなりたいのね?」
「なりたかった」
この頃は、少なくてもそう思っていた。
でも、中々枠の外から出られなかった。
じゃあ、ずっと小説を読ませてよ。
と、彼女は言った気がする。
「あなたが本当の小説を書けるときまで、ずっと見ていてあげるから」
そう言われたのね?
彼女がどちらの彼女か分からないまま、僕はうなづいた。
つづく → 「005 学校」
本編。