蒼ノ下雷太郎のブログ

一応ライターであり、将来は小説家志望の蒼ノ下雷太郎のブログです。アイコンなどの画像は、キカプロコンでもらいました。

僕は2000年を振り返ろうと思う(「騒音の怪物」番外編)  第十話 「009 学校3」

 はじめに

 *カクヨムに投稿している「騒音の怪物」の番外編です。

 

 これまでのまとめ。

 「僕は2000年を振り返ろうと思う  まとめ

 

 前回の話。

 

僕は2000年を振り返ろうと思う  第九話 「008 学校2」

 

 本編

   第十話 「009 学校3」

   本物劇団 ①
                                 ――  ――

「真由美ってどっか短気だよね」
 と、ワタシは由香が笑いながら言うのを聞いた。
 女子トイレ。
 大名行列とまでは言わないけれど、でももし上級生がここに来たら『白い巨塔』になるのかもしれない。友達数名といっしょに来ていた。

 濡れたタイル、白い壁。個室のドア。汚れはないが、汚さが空気に浸透している。
「だから、嫌われるんだよね」
「そうそう、ささいなことでキレたらしいよ。この前さー」
 鏡を見て二人はこれから儀式でもはじまるかのように、丹念にメイクをチェックしていた。
 メイクといっても中学の女子校でできるのなんて、かなり限られてるはずなのに。
「それでさ――」
 ちなみに、由香と話してるのは瑞樹っていう子で――

 ◆

「ね、これは例文なんだけど。これを学校中にバラまいたら面白いと思わない?」
 彼女は猟奇的殺人犯が笑って犯行を告白するかのように言った。
 いや、~のようにではない。
 事実、その通りだった。
 彼女は、このような小説を学校にバラまいたらしい。
「……これ、これに出てくる名前って」
「え、いるに決まってるじゃない」
 これまで通り、都会に行こうとしたら住宅地に舞い込んでしまってポツンと置かれた図書館に僕らはいた。こんな小さな図書館にも多少はテーブルがあり、僕らはそこでヒソヒソと話をする。席の都合上、向かい合わせではなく隣りに並んでの会話だ。
 この頃は思春期であるから、中学何年生であるから、もちろん女の子と――異性と、こんなに距離を近づけるのは喜びであるはずだし、本来ならこのときの僕も満面の笑みを浮かべていいはずだった。
「……きみは、何を言ってるの?」
 だが、このときの僕は顔が引きつっていた。
「え、何でよ?」
「いや、何でって」
 これは、誹謗中傷――いや違うか。誰かが誰かの悪口を言ったというのを創作して、風評被害を起こそうとしてるんじゃないのか。
 こんな――こんなの、言われた本人はどう思うのか。
 いや、まだこの例文とやらは短いから効力は低いかもしれない。この程度なら、まだ――便所の書き込み程度のものとしか見られない。
 だが――もし、もしだよ。もっと長文で文章力も高く、そして、リアリティある内容を描けるとしたら?
「面白いと思わない?」
 彼女はこのとき、笑ってはいなかった。
 だが、淡々としていた。
 まるで、こんなこと当たり前だよね。これを求めることは人類普遍の真実だよねと問い詰めるかのようだった。
「だって、自分のてのひらで現実が塗り替えられていくんだよ? これ以上、小説が生かせることって、そうはないでしょ」
「おかしい」
 僕は迷わず言った。
「……きみは、おかしいよ」
 このとき、僕はまだ彼女が本気ではない。冗談で言ってるんだと心の何処かで、なめきっていた。だが、後日それは簡単に覆される。
 彼女が通う女子校に、妹が通っているというクラスメイトがいた。
 彼から話を聞いてみた。
 何でも、最近妙な文章が話題になってるんだとか。
 今は学校ごとに掲示板があるって噂を聞くから、もう珍しくもないのかもしれないが、この当時にしては珍しく、その女子校では専用の掲示板があった。そして、そこである小説が広まってるらしい。
「で、それのせいでいじめられてる子がいてさ――」

 図書館。
 僕は平然と本を読んでいる彼女に問い詰めた。(ムカツクことに、彼女がこのとき読んでいたのは『罪と罰』だ。死ねばいいのに)
「馬鹿じゃないのか、きみは!?」
「何を怒ってるの?」
 ああ、言われたコロッケならちゃんと近くのスーパーで帰りましたわよと、長文の感情をひめながらも冷静を装っている彼女に憤りを感じる。
 図書館員が僕らを気にして、何してるんだとという目で見てくるがそんなのおかまいなしだ。
「きみはこんなことして」
「こんなこと?」
 彼女はクスリと笑って言った。

 ――そして

 ◆

 ――という、小説を彼女は僕に見せてきた。


 正直、僕はどういう表情を浮かべればいいか分からない。
 作中作というか。
 現実まで取り入れて、『ウロボロス偽書』のようだというか……。
 現実の僕が図書館で彼女に『本物劇団』という作品を読んで、それにより事件が生じ、彼女に憤りを感じる――という内容の小説を読まされたのだ。
 ……あれだ。人は本当に驚愕に値することに出くわしたら、沈黙してしまうんだな。
 適切な言葉が何も浮かばない。
「ね? ね? どう――どう思う? これからね、話が展開していって」
 彼女は、こういった話を書くのが好きだった。
 まるで、夢野久作が少女に乗り移ったかのように――『鉄槌』という小説だったか。あれに出てくる青年の笑みに近い笑い方で、僕に小説の内容を語ってきた。
 これが、彼女だ。

 

 つづく → 第十一話 「010 学校4」

 

 

 本編。

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