蒼ノ下雷太郎のブログ

一応ライターであり、将来は小説家志望の蒼ノ下雷太郎のブログです。アイコンなどの画像は、キカプロコンでもらいました。

I’ll(7start 2.0 番外編)  第一五話「探索」

 はじめに

 *スマホだと一部表記が乱れる可能性があります。

 

  カクヨムに投稿している「7start 2.0」の番外編です。

 

 これまでのまとめ。

I’ll まとめ (7start 2.0 番外編)

 

 前回の話。

第十四話 「墓場」

 

 本編

 I’ll 第一五話「探索」

 

 041

 

 リスはクジラの代わりにリーダーになるってことで、二狗さんのとこに行った。
 で、クールな印象の子……クジラの妹、アリカちゃんは何処か、一人でフラフラーと離れた。
 随分と、おねえさんとは性格が違うようだ。

「あの子、自由人だからね。仕方ないよ」

 

                (interface_guide)
             女の子を「ちゃん」付けですか。
               気持ち悪いですねぇ。
                (/interface_guide)

 

 うるさいよ。
 別にいいだろ、現実では言ってないし。
 というか、三人称でいちいち。

「アイルちゃんって、たまにポツンと心が置いてけぼりになるよねぇ」
「え、あっ――」
 と、僕は現実に連れ戻される。
 リスとアリカちゃんがいない今、僕はシャケと二人で行動していた。

 

               (interface_guide)
             シャケには、なしですか。
           恥ずかしくなってやめたくなったが
       アリカと呼ぶとガイドに言われるがままって気がして
    むかつくから、シャケは呼び捨てにした――っていう理由ですかね。
               (/interface_guide)

 

 僕で推理するな。
「もう、ぼぉーとしてたらぶつかるよ?」
「え、あ、ごめん――!?」
 シャケは僕の右手をとって引き寄せる。
 ――う、うでに――む、むむむ、ねの感触が伝わる。

 

               (interface_guide)
                 ………。
               (/interface_guide)

 

 わざわざ、無言の文字を見せなくてもいいだろ!
 うるさいよ!
 僕なりに予想外で緊急事態なんだよ!


「て、てててか、今どこに向かってるの?」


 僕はシャケにある場所へと案内してもらっていた。せっかくだし、あそこに行こうよと言われたのだ。
 で、未だにその『あそこ』が何処か教えてもらってないけど。


「え、お風呂だよ?」


 三番街は新鮮な水が豊富で。
 そのため、お風呂などの設備も整っているんだとか。
 お湯を沸かす場合は時間制で、チームが限られた時間をスケジュール通りに入って行く――のだが、僕はけが人だし、さっきまでずっと寝ていたから、と頼みに行くそうだ。


「ま、ついででシャケちゃんもお風呂は入れて万々歳なんだけどね」
「………」


 僕は逃げようとした。
 シャケの腕が――お、おっぱいが、僕を逃がさない。

 

                (interface_guide)
             いや、逃げなんてしなくても。
           というか、色々とテンパってますね。
                (/interface_guide)

 

 だったら、助けてよ!
 逆にこわいよ、何でこんな――あ、シャケが離さない! 離してくれない!
 意外と力あるよ。ああああああああああっ――

 

 042

 

「………」
「ふいー、すっきりしたね」


 お風呂上がり、シャケと僕。
 彼女は長いピンクのもさもさした髪を、バスタオルでふく。
 僕も三つ編みをほどいた長い髪をバスタオルでふいている。
 ふきながら、校舎の廊下を歩いていた。服は同じだが湯上がりで汚れは一掃され、肌もつやつや、血の気もよくなった。

 

                (interface_guide)
                  えっち。
                (/interface_guide)

 

 うるさいよ!
 仕方なかったろ、僕のせいじゃないだろ。
 僕は逃げたぞ! ちゃんと逃げたぞ。
 それをシャケが無理矢理。

 

                (interface_guide)
                  内心は?
                (/interface_guide)

 

 すごかった!

「もう、だからアイルちゃんってぼぉーとしすぎぃ」
「あ、あぁ、ごめん」
 頭の中で、ガイドと格闘していた。
 文字がカタチを得たら、日本刀を振り回して暴れそうな奴だった。
 危ない危ない。
「ねーねー、せっかくだしさ。この辺りをブラブラしようよ。ねーねー、どこか行きたいとこないの?」
「い、行きたいとこ?」
 そんなこと言われても、と僕は咄嗟のことに頭が真っ白になるが――しかし、数秒してパッとあることを思いついた。
「クジラの……」
 あまりにもあっさり閃いたので、自分でもびっくりだ。
「クジラの、生きていた部屋」
「……いいよ」
 シャケはほほえみを止めて、無表情に。そして、何故か僕の頭をなでる。
 ……いや、何故なでる?

 

 043

 

 だが、クジラの部屋には先客がいた。
 部屋というか、大体団員の寝床はチームごとに分かれていて、二つある二段ベッドでぎゅうぎゅうの部屋だ。二段ベッドをこよなく愛するのか、チームが八人や十人でも、一つのベッドに大量に寝かせて過ごさせるんだとか。
 ……リスが、クジラの寝床で頭をかかえていた。


「――もどろ」


 シャケが僕の肩を押して反転させ、退却。
 彼女は二狗の部屋に行く前なのか、行ったあとか――いや、行ったあとか。
 とても、神聖な時間のようだ。

 

「ま、ごめんね。シャケ達も色々と抱えてるものがあってだね。あ、そうだ。お姉ちゃんが通りで何かおごってあげるよ」


 頭をなでながら言うシャケ。
「……何故なでるんですか」
 あと、何故お姉さん?
 いや、実際この体と比較すると年上だけど。
「いひひひっ……」
「ちょ、――もう」
 シャケがニコニコしながら抱きついてきたが、悪い気はしなかった。

 

             (interface_guide)
               ヘンタイ。
             (/interface_guide)

 

 だから、うるさいよ。

 

 

 つづく → 第一六話「一人でいること」

 

 

 さいごに

 

 もう片方のブログ小説が終わったんで、ブログ小説の更新時間を変更します。

 今後は、火曜日と土曜・日曜に更新します。

 時間帯は、七時から八時頃をと考えております。

 

 唐突になりますが、何分よろしくお願いします。

 

 

 

 

 本編はこちらです。

 最初は、三番街の族『V』の九鴉が主人公ですが。

 徐々に群像劇に変わります。よろしく!

 

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僕は2000年を振り返ろうと思う(騒音の怪物 番外編)      最終回 「013 「騒音の怪物」」

 はじめに

 *カクヨムで投稿されている「騒音の怪物」の番外編です。

 

  これまでのまとめ。

僕は2000年を振り返ろうと思う  まとめ

 

  前回の話。

第十三話「012 あのとき」

 

 本編

   僕は2000年を振り返ろうと思う

                    最終回 「013 「騒音の怪物」」

 

 僕にはそれが天使の輪っかに見えた。
 かすかに入る陽光がまぶしく、希望の天窓にさえ見える。

 

 叔父からもらった手紙を読んでみる。


『小説家になって苦労したことなど、何一つない。全部が良い経験で、楽しくて、豊かな人生だったよ。小説家になって、一片の悔いもなしと言えば大げさに聞こえるかもしれないが、実際その通りなんだ。少しの後悔もない。このまま小説の中に沈み込んでしまいたいくらいだ。我々は他人という読者がいないと何も出来ない者だよ。小説家は、この世で最も脆弱で貧弱な芸術家だよ。映画も、漫画も、音楽も、他にもなんでもいい。それらは単体で成り立つもので、読者がどうこう関係なく、美を発揮する。だが、小説はいつまでたっても読者ありきだ。読者しかありえない存在。青空一つ描写するにも読者のキャンバスを借りなきゃ何も描けないのだ――だが、だからこそ美しいと思った。人との対話、コミュニケーションが苦手な自分にとって、小説こそが唯一の対話に感じたからだ』


 嘘だ。
 僕は叔父からこんな手紙もらったことがない、これは僕がついさっき自分で創作して書いたものだ。
 創作した叔父の手紙を自室で破って、キッチンに行って燃やした。
 皿の上に燃えていく偽の手紙。
 せっかく館をキレイにしたばかりなのに、わざと汚そうとしてるのかチリヂリと灰が飛んでいく。

 

 叔父の知らせはまだ届いていない。
 あの人は小説を書くのが好きだから館にずっと居続けたけど、でも本来は旅好きな人なんだ。でなきゃ、小説のジャンルをあそこまで行ったり来たりしていない。本当はずっと同じ場所に居続けることなんて不可能な人なんだ。だから、あの人は小説に憧れた。
 見たこともない世界に――入ることができた。
「このまま……潜ってしまいたい、か」
 僕は想像する。
 自分の身体が大海原に放り出されるのを。ヘリコプターでも何でもいい、僕のカラダはいつのまにか運ばれていて、眠らされてるのだ、で急に海に落とされる。気がついたら、海の中にドバッーンと入り、沈む。バタバタと手足は悪あがき。声も上げるだろう。海に沈んでいく。気がついたら、その感覚が愛おしくなるのではないか。服が海水を吸収し、重りのようになる。まるで手で引っ張られるかのように、深遠な世界に連れてかれるかのように沈んでいく……叔父は、こんなものを望んでいたのか。
「………」
 天使の輪っかから、海の底まで到達できるだろうか。

 ここには、唯一出てこない幻がある。
 それは、叔父だ。
 あの大作家、よりにもよってあの叔父が出てきていないのだ。小説に対するエネルギーが一番強いはずのあの人が、何故出てこない。
 ……途中から段々と分かってきた。
 ここにいる幻は生きようとした証なんだ。
 だから、鈴野も、傘頭も、有田も、道川も出てきた。僕だって……さっき出てきた。
 そうだ。
 生きようとするエネルギーこそが、この世で最も美しい力。
 だからこそ、ここにいつまでも残っているんじゃないか。
 あの人達は中には死んだ人もいるけれど、それでも当時のエネルギーが美しかったから、今でも鮮明に残っているのでは。
「………」
 僕の幻はどうなるのかなと、煙草を吸ってみた。
 誰の部屋か忘れたが、見つけたのだ。僕が見たこともないもので、試しに吸ってみるとすごいまずかった。煙草自体が苦手だったから、まずはすさまじく、何度も水でクチを洗った。
 やはり、僕にはこんなものはいらない。
 必要ない。
「さよなら」
 僕は、ここまで書いてきた小説を机の引き出しにしまう。
 一つは「僕は2000年を振り返ろうと思う」で、ここから出る卒業作品のようなものだ。そして、もう一つはここのことを書いた日記。
 あれこれ考えてみたが……これが、これが僕の作品だった。
 僕自身を描くなら日記以上に最適な題材はない。
 これが、これが――僕の、「騒音の怪物」だった。
 本当に、幻なんて館に出てきたのか。
 細かなとこは読者の想像に任せる。
 だが、これだけは真実だ。
 僕は、キレイなものが好きだったんだ。

 

「……っ」

 

 ――ガタガタ、と部屋が揺れる。
 いや、館全体が震えてるようだ。
 ドンッ、またドンッ、と。
 巨大な太鼓が叩かれるように、何かが音を立てた。
「………」
 窓から、その轟音とともに――巨大な生物の姿が見えた。
 彼女は、その生物の頭に乗っていた。シュールな絵だが、非常に彼女らしいと笑った。

 


 おわり

 

 

 最後に

 ぼかしてるようで、ぼかしてない書き方ですが。

 主人公は何で妙に意味深な語り口なのか。

 宣伝になりますが、本編を見ていただければ幸いです。

 

 もう一つのブログ小説と交互に毎日更新なんて、しかも朝の早い時間帯に更新だなんて、随分と無茶をしてみましたが。これも一興。中々、ためになったと思います。

 願いましたら、みなさんの感想の声が聴けたらうれしいです。

 以上、蒼ノ下雷太郎でした-。

 

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I’ll (7start 2.0 番外編) 第十四話 「墓場」

 はじめに

 *スマホだと一部表記が乱れる可能性があります。

 

  カクヨムに投稿している「7start 2.0」の番外編です。

 

 これまでのまとめ。

I’ll まとめ

 

 前回の話。

I’ll  第十三話「夢」

 

 本編

   I’ll 第十四話 「墓場」

 

 039

 

 ――カラスが、三番街のノザキ邸に赴く。

 

「ちゅー」

 

 カラスに合わぬ、鳴き声を発して。

 

 040

 

 クジラの葬式が執り行われることになった――といっても、ここにいるのは数人しかいない。
 僕と、リス。そして、あのとき歓迎会で来られかった二人。
 アリカと、シャケだ。

「………」
 アリカ。
 水色のショートヘアーの少女。
 年齢も、体格も、リスと同じぐらい。
 顔つきもリスと同じように整っていて、かわいらしいはずなのだが、表情が乏しいからか尖っているように見える。
 彼女は眼鏡をかけていた。
 いや、眼鏡をかけていたのあとに書くと関係してるように思われるが、関係はないが――彼女は、クジラの妹だ。
 今は、悲しみをこらえてるのか。それとも、敵に怒っているのか。よく分からない。

 

『友よ……今までありがとう』

 

 ノザキ邸から離れた雑木林の一角。
 そこに、団員専用の墓地があった。
 死体は近くの専用焼却炉で焼かれ、ここで壺に入れられて埋葬される。
 墓の証として、木材でできた十字架が立てられていた。
「……墓、か」

 

             (interface_guide)
          あっちでは見ることなかったでしょ。
             (/interface_guide)

 

 その通りだ。
 VRでは、そもそも人が死ぬ・生きるって感覚が希薄だ。
 だって、仮想現実にいたから。ずっと。

 

「ねーねー、クジラちゃん何で死んだの? 油断してたの」
「あ、あんたねぇ……」


 不謹慎に声を上げているのがいた。これが、シャケという女の子。
 彼女は一つ年上らしいが、あまりそうは見えない。
 ピンク色の髪で、もふもふと綿飴のようにくるまっている。髪の量自体は多く、長さも肩から先まで伸びているのだが、もふもふし過ぎて感覚が分からなくなる。
 ……あと、胸が大きい。

 

            (interface_guide)
              えっち。
            (/interface_guide)

 

 うるさいよ。
 ――いや、それはいいとして。
 この子、静かにできないのかな。
 仲間が死んだのに、不謹慎というか。

 

           (interface_guide)
       いえ、これでも悲しんではいます。
   というか、死生観って露骨に文化の違いをあらわしますね
           (/interface_guide)

 

 ……ん?

 

           (interface_guide)
          ここはシビアですよ。
        平気で人の生き死ぬがある。
       部隊の仲間だけが先に集まって
      あとは暇な者が勝手に来るシステムも
          効率を重視したため。
  ようするに、死に対してあなたほど悲しがっていないのですよ。
           (/interface_guide)

 そ、そんなぁ。
 僕はショックを受ける。
 クジラの顔や――声を――だって、このアリカっ子だって。悲しそうに。

 

           (interface_guide)
     いえ、だから悲しがってないわけじゃなくて。
       この子の心の中は知らないですけど。
      何というかですね……泣かないんですよね。
           (/interface_guide)

 

 な、泣かないって。
 そんな、おかしいよ。大切な仲間が死んだのに、そんな。

 

          (interface_guide)
         毎日起こってることに
         そんなリアクションを?
          (/interface_guide)

 

 そのとき、僕に衝撃が走った。
 ――慣れ、なのか?

 墓に、花がそえられる。
 リスやシャケ、アリカは両手を合わせてお祈り。
 ちなみに、さっきまでお経のようなのを唱えていたのは二狗さんだ。
 団員の弔いは、主に彼がやっている。
「………」
 僕もクジラに両手を合わせた。

 

 ――カタキはとるからね。

 

 ふと、声がした。
 見てみると、シャケが真顔でクジラの墓に語りかけていた。
「………」
 真顔といっても、普段の表情と変わらなそうだ。今日の晩ご飯は何? と言いそうな、ごくありきたりの表情。
 その顔で、彼女は敵をブッ殺すということを言ったのだ。
 仲間のカタキをとる。敵の死をもって――

 

            (interface_guide)
           悲しがってはいない。
           だけど、キレてはいる。
            (/interface_guide)

 

 それが、三番街の――いや、地下都市の死の弔い方だった。

 

「………」

 

 一人、リスはシャケの言った言葉に、悲しげな表情を浮かべていた。

 

 

 NEXT → 第一五話「探索」

 

 

 さいごに。

 

 本編もよろしくお願いします!

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僕は2000年を振り返ろうと思う(騒音の怪物 番外編)  第十三話「012 あのとき」

 はじめに

 *カクヨムに投稿している「騒音の怪物」の番外編です。

 

  実は「騒音の怪物」の最後の方で、微妙に話がつながっています。

  どうつながってるかと言えば、主人公の心です。

 

 これまでの番外編のまとめ。

僕は2000年を振り返ろうと思う  まとめ

 

 前回の話。

 第十二話 「011 日常」

 

 本編

   僕は2000年を振り返ろうと思う

                   第十三話「012 あのとき」

 あのときのことは、――いや、あの事件のことは事実だけを述べよう。

 彼女は、『本物劇団』を学園中にばらまいた。
 当時はインターネットが今ほど普及していなかったから、爆発的に広まったわけじゃない。もし、今のようにネットが当たり前の、スマートフォンで子供達が気軽に見られる時代だったら、どうなっていただろうか。多分、彼女はそこに爆弾を投下しただろう。ただ、時代が違っていただけだ。時代が違っていただけで、多分学園内だけで済ませられた。学園の外には出なかった。
 それは、彼女がある種の壁を乗り越えられなかったでもある。

 僕は、一ミリも共感できない。
 彼女がしたことは最悪だし、最低だ。
 話を聞くと彼女のせいで人間関係がめちゃくちゃになった者も多く、中には「これが私の本音なのよ!」とよく分からない流れになった生徒もいた。いや、それはどうでもいい。これでも、学園内の話だけで済ませられたのは、教師の尽力によるものだし、それはすばらしいことだと思う。
 だが、彼女はそれでひどく傷ついた。
 いや、他の人から見たら「お前は傷つく資格ねーよ」と思うかもしれない。その通りだ。だが、僕は目の前で彼女が今まで書き上げた小説を燃やすのを見た。
 僕らの町は田んぼかガソリンスタンド、もしくはチェーンの飲食店ばかりが並ぶとこで、これといった特産はなく、観光客なんて来るはずもなく、何のためにあるのか分からない場所だった――そんな場所でも新規事業を興そうとした人はいたらしい。そこかしこに、廃墟があった。二階建てのビル、ちょっと大きなモダン建築のようなもの――だがどれも、結果は同じだ。朽ち果てた死体のように死んでしまった。廃墟だ。
 僕らは、その廃墟の中でも極めて地味な廃墟に忍び込んだ。
 二階建てのビルで、非常階段から二階にのぼる。二階のドアは押すとガタガタと揺れて、簡単に中に入れる。権利者も、こんなとこ誰か来ても別にいいやと放置。ヤンキー達もこんな地味なとこは興味ないよ、と来る気配はなし。
 だから、僕らは忍び込んだ。


 四月九日。
 春休みが終わり、新たな学校生活がはじまるぞ――ってときに彼女は『本物劇団』をやらかして、停学を喰らった。いや、義務教育だから停学で済んだが、退学と言われても仕方のないことをしたと思う。
 彼女は無言で僕に指示する。指で、ドラム缶を差し、指で二階を差した。

 深夜。この時間帯はまだ肌寒い季節だ。それなのに、彼女は。
 はこべ。
 と指示した。コートに身をつつんだ僕は肩をすくめながら、拒否はしない。

 僕は体力にあまり自信がなかったけど、どうにか運んで、中に入れた。
 ドラム缶の中に少しばかり灯油を入れる。ペットボトルに入れていた。家のストーブから拝借したのだろう。そして、マッチで火を点けた。ボーボーと、絵本の火のように燃える。
「………」
 彼女は、ドラム缶の中から伸びる赤い腕のような――炎を見つめる。
 太陽を凝視するように、そのままじゃ網膜が焼かれてしまうんじゃないかと――思うほど眺めて、そして小説の原稿用紙を破って、一枚、一枚、捨てていった。
 お岩とは違う、悲しみ。
 ここでまた「いやだから、お前に悲しむ資格ねーよ」と思うかもしれない。だが、僕は彼女を完全に否定できるかと言ったら、NOだ。
 本当に好奇心や――欲求だけであんなことしたなら、――したなら、何故彼女は箱守という少女の小説を僕に見せた。他の生徒から話を聞くと、彼女は実在してるようじゃないか。「……っ」しかも、彼女が一番の被害者だ。
 だから、この目の前で原稿用紙を燃やしている彼女が――彼女が、……いや、それは希望的観測か。
 流れ星に願いを祈れば――もしかしたら多少でも願いが叶えられる可能性があるのじゃないかと自分に言い訳するような希望的観測はやめよう。
 彼女は泣かなかった。

「――っ」

 だが、その表情は怒り狂っていた。
 散々好き放題やって、人を傷つけて、周りに迷惑を掛けて――最後は何も残らなくて。
 彼女はこれからどうするんだろう。
 噂では彼女が犯人だということは知れ渡っているらしい。というか、堂々とHRで「あ、はい」と名乗り上げたんだそうな。馬鹿か。
 ……いや、彼女にとってはもしかしたら恥じるより……何でもない。虫酸が走る。


「………」


 じゃあ、僕は何だろう。
 僕の作品は一切人を傷つけないと言えるのか。誰もが幸せになる小説だと言うのか?
 本当に、彼女を非難できる立場にいるのか?
「……っ」
 そもそも、僕が本気で止めていれば――いや、まさか本気でやるとは思わなかったけれど。……でも……。


 それ以降、彼女とは会っていない。
 ……いや、嘘か。
 ああ、小説を書かないと。2000年を振り返ったら、次は『騒音の怪物』を書かないと……書かなきゃ……書かなきゃ、ダメなんだ。僕は。

 僕は衝動的に自室から出て、叔父の書斎に行き、棚にあった叔父の本を全て床に叩き捨てた。
「――あっ」
 そして、ふとある一冊で止まる。
『さよなら、デトリタス』という本だ。
「………」
 これは、SF作品。未来のドイツを舞台に暗躍する主人公が、国際的犯罪者となった親友を殺す――物語だ。
 その小説ではEUの経済が破綻し、そのおかげで原理主義が貧困と結びついて台頭、やがて経済発展したアジアにテロを引き起こす世界である。
 そして、何よりアジアの中心であった日本の東京で大犯罪が起こる。
 それに巻き込まれた主人公は復讐のためにスパイとして暗躍するのだが、彼は内心その生活にボロボロになり、だから常に創作物を愛していた。芸術を愛していた。現実に圧倒的なまでに悲観したから――現実じゃないのを夢見てしまった。
 世界的に有名になった小説家の親友を――うらやましくもあり、同時に尊敬もしていた。
「……っ」
 これだけは、叩きつけられなかった。

 

 

 つづく → 最終回「騒音の怪物」

 

 

 さいごに。

 

 今まで、ありがとうございます。

 次の回――ようするに、明後日で「僕は2000年を振り返ろうと思う」は終わりになります。

 乞うご期待。

 

 本編もよろしく。

kakuyomu.jp

間に合え――『孤高の遠吠』の当日券!!

 ん、いや、本当は月曜日に見に行くはずだったんだけど。

 ここまで、のびちゃったのがね。

 だって、カクヨムが……くそぉ! 当日券はネット予約できなかったなんて、MOVIX的なノリでやってたよ!

(ようするに、自分が悪い)

 

www.uplink.co.jp

 

 DVD化しないって言うし、今しかねぇ!

 この言葉をいうのは、虫酸が走るが――今だよ!!

I’ll(7start 2.0 番外編)  第十三話「夢」

 はじめに

 *スマホだと一部表記が乱れる可能性があります。

 

  カクヨムに投稿している『7start 2.0』の番外編です。

 

 I’ll これまでのまとめは。

I’ll まとめ (7start 2.0 番外編)

 

 I’ll 前回の話は。

I’ll(7start 2.0 番外編) 十二話「死にたくない」

 

 本編

   I’ll 第十三話「夢」

 

 036

 

 僕は――消えていく感覚を受ける。
 
 意識が――沈んでいくかのようだ。

 

          <i>      しずんでいく      </i>

 

           <i>      しずんで      </i>

 

            <i>      沈んで      </i>
             <i>      沈む      </i>

              <i>      沈      </i>

                                                        <i>    沈っ    </i>

                                                         <i>    沈……  </i>

                                                             <i>   沈…… </i>

                                                                 <i>  沈  </i>

 

 ……このまま、死ぬのかな。
 ……いやだな。
 ……死にたく、ないな。

 

 脳裏に、リスの顔が浮かんだ。

 

 ……死にたく、ないなぁ。
 転生なんてやだよ。
 ……生きて……生きて、やり直したい。
 もう一度、どうやればあの戦いに生き残れるか。クジラだって……あと、Xに勝てるかも分からない。
 でも……でも……リスに、もう一度……会いたい。

 

 037

 

「アイル!!」「――おわっ!?」

 

 衝撃で目が覚めると、眼前にリスがいて余計に声を上げる。「おおっ!?」
 で、首を絞められる。


「何で、私を見て悲鳴を上げるのよぉ……」
「ぢ、ぢがう……ぞ、ぞういうわげじゃ……」

 

 起きると、僕がいたのは木目の床に敷かれた布団の上だった。
 見回すと僕以外にも負傷者が横たわっている。

 二十畳以上はある大部屋。教室を利用した場所らしい。

 窓ガラスからはライトの光がこぼれていて、明るい。
 この中には僕以上に――凄惨なありさまの者もいるようで、その人は衝立代わりのカーテンで隠されていた。だが、ときおり聞こえる悲鳴が耳にひびく。


「……ここは?」
「負傷者の収容所」
 もどったんだよ。
 と、リスは微笑みながら言った。

 

               (interface_guide)
           これじゃ、夢オチと変わりませんね。
                ぷんぷん。
               (/interface_guide)

 

 拡張現実で、視界にウィンドウが表示された。
 ガイドも無事のようだ――いや、傷つくことがまずありえないのか。


 僕の全身からは、湿布や塗り薬のにおいがする。

 包帯もいくらか巻かれていて、とくに頭部や手足が重点的にされている。

 見ると、リスも僕と似たようなものだ。彼女がいつも被っているニット帽は、そばに置かれていた。ビニール袋にまるごとつめられて。僕の衣服もそこにあるようだ。
「……どうやって?」
 僕は重要なことを聞いた。
「九鴉さんが助けてくれたんだよ」
「え?」
 九鴉が?
 そんな、どうやって。

 

               (interface_guide)
           いや、爆発で煙が上がったでしょ。
               (/interface_guide)

 

 ――あぁぁぁっ。
 僕は納得する。
 そりゃそうだ。あれだけドンパチやってれば、音も響いただろう。

 

              (interface_guide)
     運良く、九鴉もあの辺りと推察してたらしくてですね。
         すぐに察知してくれたらしいですよ。
   あなたが五体満足なのも、彼が殺されそうなあなたを救ったからです。
              (/interface_guide)

 

 と、思わず自分のカラダを確かめる。
 上半身は胸に布が巻かれた程度で、露出。
 腕やお腹など、切り傷や打撲を治すために塗り薬や湿布が貼ってあった。
 ……九鴉がいなかったら、この手足もどうなっていたことか。


 ぞっとする。


「アイル?」
 ぞっと……した。
「アイル」


 リスは何も言わず、僕を抱きしめてくれた。
 僕は、ありがとうを言うヒマもなく、泣いた。

 

 038

 

 意識が覚醒したら部屋から出てけと言われた。
 ちょっと、ひどいんじゃないと文句を言おうとしたが――続々と運ばれる負傷者を見て、何も言えなくなった。
「……カバタ族」
 僕の重々しい声に、リスがビクッと震える。
 ……震えることないじゃないか。
 きみだって、あいつらに襲われただろう。
 ……クジラを、殺されたじゃないか。

 

              (interface_guide)
           一つ、忠告しておきますよ。
              (/interface_guide)

 

 ガイドが余計なクチ出しをしてくる。
 何だよ、別にきみに何か言われなくても。

 

              (interface_guide)
           リスは、サズカ族の出身です。
              (/interface_guide)

 

「……ん?」
 僕は突拍子もなく声を出す。
 だが、この程度なら怪しまれることはない。
 リスも気にしていない。
 いや、僕はそれどころじゃなかったが。
 ……サズカ族?
 それって……カバタ族を、あの僕らを襲ってきた二人組の親元のような。

 

             (interface_guide)
         そうですね。このテロの元凶です。
             (/interface_guide)

 

「………」
 僕は、冷や汗を垂らしてリスを見た。
 そしてすぐに、一瞬抱いた恐怖を恥じてしまう。
 リスは青白い表情で負傷者を見つめていた。
「リス」
 彼女を彼岸から連れ去るように、呼びかけた。
「リス!」
 彼女の手をにぎる
「……ごめん」
 あやまるなよ。
 何で、あやまるんだよ。
「……ごめん、なさい」
「違うだろ」
 きみのせいじゃ、ないだろ。
 こんなとき、僕らを助けてくれた九鴉だったら、また何か違うことが言えたのかな。
 あのXと戦って僕らを救出できるぐらいの人だ。
 ナンバーズだ。
 強いんだろうな……そんな人だったら、こんなときにも、もっとリスを助け、はげます言葉を出せるだろうに。
「きみは……きみは、わるくない」
 ただ僕は、泣いて彼女の手をにぎるしかできなかった。

 

               (interface_guide)
         ……それだけで、十分だと思いますよ。
               (/interface_guide)

 

 ガイドが珍しく、優しい口調で言ってた気がするが無視した。

 

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 さいごに

 

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