蒼ノ下雷太郎のブログ

一応ライターであり、将来は小説家志望の蒼ノ下雷太郎のブログです。アイコンなどの画像は、キカプロコンでもらいました。

 僕は2000年を振り返ろうと思う(騒音の怪物 番外編) 第十二話 「011 日常」

 はじめに

 *カクヨムに投稿している「騒音の怪物」の番外編です。

 

 これまでのまとめ。

「僕は2000年を振り返ろうと思う(騒音の怪物 番外編)」 まとめ

 

 前回の話。

 第十一話 「010 学校4」

 

 本編

 僕は2000年を振り返ろうと思う

                 第十二話 「011 日常」

 僕は叔父からもらった館で小説を書いていた。
『騒音の怪物』。

 出来不出来はともかく、やっと僕の小説が書けたと思う。
 ジャングルの秘境で、というのは大げさか。でも、これまで探してきたものだ――過去に来た道をたどり、ようやく、秘密基地にでも落としたものを見つけた喜びが僕の中にあった。

 彼女の話をしよう。

 過去ではなく、現在だ。
 そのため、2000年を振り返るという主題からは外れてるように見えるかもしれない。
 だが、これがあるから過去を振り返りたいと思った。
 僕は、彼女が今どうしてるかを知っている。

 実は知っている。
 彼女と一度だけ会ったことがあるのだ。嘘をついた。
 あのあと――2000年のあの出来事のあとに、数年後――大人になって、喫茶店で会話した。
 馬鹿でかいスピーカーが壁に取り付けられていた喫茶店だった。
 店内は薄暗く、座席は教会のように横並びの席がスピーカー前にあり、あとは壁に寄り添うように向かい合わせの席、そして二階の座席。僕らは壁に寄り添う場所に座った。
「変わってないのね。あなたは、まだこんなとこで暮らしてる」
「暮らしてはいないよ」
 でも、こういう世界で生きようとはしている。
 人のロマンで構成された場所に、僕も居続けたいと願っている。
「私、結婚するの」
 と、彼女は結婚指輪を見せた。
 このとき浮かべた微笑はとてもキレイだった。
「そうか」
 僕は動揺していたのか。
 していなかったのか。
 下手したら、安心してしまったのかもしれない。
 あれだけ激しかった彼女だ、何でもしようとした彼女だ。
 それが、ようやく落ち着いて――落ち着いて?
 何が、落ち着いたといえるんだ。
「もう、夢見るのはやめようってね。だって、辛いだけじゃない。私さ、昔は、その、思春期だからさ。いや、これは言い訳だよね。ちょっと、自分でもないと思う。だから、ふっきろうとしたの。そしたら、大学の同窓会。まだ一年か二年しか経ってないのにね、いい人と出会えたの。その人は本が好きだった。だからかな。そう考えると、あれまで本に熱中していたのも無駄じゃなかったって思える」
 本当に?
「あれほど、気が狂っていたきみが?」
「気が狂っていたって――失礼ね」
 否定はしなかった。
 失礼ね、と言っただけで。
 スピーカーから流れる音はベートーベンのピアノの曲だ。
 ベートーベンは誰よりも理想を追い求めていた気がする。いや、これは吉田秀和の受け売りなのか。でも、僕もそう思う。昔、彼の伝奇漫画を読んでたときに、ナポレオンのために『英雄』を書き、のちに失望した彼の顔が――今でも鮮明に頭に浮かぶ。
「僕はきみが嫌いだったよ」
「……嫌な告白ね」
「だけど憧れてたよ」
 それが全てだった。
 彼女が結婚することは喜ばしいことだ。それに勝手に暗くなるのは僕の心が歪んでいるからだろう。あまりにも愚かで、下劣だ。だが、心は論理でどう否定しようにも迫ってくる。吐き出したい、ぶちまけたいという感情が芽生えてくる。
「小説は?」
「ん、今でも読んでるわよ。そりゃ、習慣だからね。ついつい、手に取っちゃって。この前、読んだのは本屋大賞の」
「違う。執筆だよ」
「ない」
 否定。
 やっと聞こえた、彼女の否定。NO。

 本心だ。
「書くはずがないじゃない」
 間を取るように、コーヒーを飲む彼女。
「だって、何も変わらないじゃない」


 ……そして、一人だけになった。
 僕はベートーベンの悲しいピアノソナタを聴いた。
『勝手に悲しんで、憐れな人』
 僕が書いた小説に出てくる彼女の声が聞こえてきた。
 あまりにも、悲しかった。
 みじめだった。

 

 つづく → 第十三話「012 あのとき」

 

 

 最後に

 

 本編は完結しようとしています。

 よろしくお願いします。

kakuyomu.jp

I’ll(7start 2.0 番外編)  十二話「死にたくない」

 はじめに

 *スマホだと、一部表記が乱れる可能性があります。

 

 これまでのまとめ。

I’ll まとめ (7start 2.0 番外編)

 

 前回の話。

I’ll(『7start 2.0』番外編) 第十一話「死亡フラグ」

 

 本編

   I’ll 十二話「死にたくない」

 

 035

 

 ――敵は、血液をあやつる能力者。

 

               (interface_guide)
               避けるか、受けて!
               (/interface_guide)

 

 無茶言うな――いや、僕の能力なら敵の攻撃を受けることができる。
 全身の一部を硬質化する能力。
 といっても強度はそんなに高いわけじゃなく、せいぜい体の一部を銃弾が弾くぐらい硬くする――って程度だ。
 それで、充分だと思っていたんだが。


「何か、敵の攻撃が増してないかい?」

 

 僕は背中を向けて全速力で逃げていた。
 うしろからは血液を銃弾のように放出させ、攻撃してくる――少女。
 灰色のニット帽を被り、短い金髪、端整な顔立ちに薄汚れたツナギを着ていて、バタフライナイフを持って、指から血を流して――男の子のように見える少女。名前は『X』。

 

              (interface_guide)
            随分と敵は怒ってますね。
              (/interface_guide)

 

 冷静に言わないでよ!
 こっちは今死にそうなんだよ!
 何だよ、あの連射性! 威力! スピード!
 段々と弾く所じゃなくて、衝撃で――。

 

 と、僕の体が回転してしまう。
 地面を坂道のように転がる。平坦な道で――慌てて起き上がり、逃走。
 敵は倒れてる最中は攻撃しないという誓約でもついてるのか、いやついてるのか? 何もしてこなかった。

 

              (interface_guide)
       やたらと教義に忠実なのは分かりましたね。
       これなら、森の中に隠れた方が良さそうです。
              (/interface_guide)

 

 は?
 も、森の中って――な、何で。
 ……あっ!
 僕は言われた通りに森に走って行く。
『逃げるな!』
 敵の甲高い声が聞こえてくる。


 ひぃっ!!

 

              (interface_guide)

       彼女の様子だと負傷してるリスを襲いそうにない。
         それなら距離を取って逃げた方が効率的。
       そう、この障害物の多い森の中まで逃げれば――
              (/interface_guide)

 

 パンッ――パンッ――パンッ――と、高木を貫く音。
 樹皮は破壊され、パラパラと落ちた。乾いた破裂音がひびく。
「ばーか! そんなんじゃ当たらないよ、おとこ女!」
 余計に怒らせたようだ。
 血の弾丸の数が増えていき、乾いた破裂音が増えていった。

 

              (interface_guide)
               いいですよ。
    障害物は見えにくいし、攻撃も貫通するごとに威力が減ります。
           そして、敵は自分の血を使っている。
 あまり連発すると簡単に倒れてしまうもののはず。それなら、怒らせて平静をなくせば。
              (/interface_guide)

 

 僕にも勝機がある!
 僕はひた走り、敵にあらんかぎりの罵倒を――

 

              (interface_guide)
                嘘っ!?
              伏せて、アイル!!
              (/interface_guide)

 

 え、と一瞬だけ僕はとまどうが、ガイドの言う通りにすぐに伏せた。
 瞬間――猛吹雪のような血の弾丸が頭上を襲った。
 高木は貫通するどころか幹を破壊されたものも多かったようで、いくつか危うく近くに倒れかかってきた。
「ひぃっ!?」
 魚の大群のような血の弾丸を一度に放出したX――馬鹿じゃないのか。あんなに、一度に血を使ったら倒れてしまうに――

 

              (interface_guide)
              いえ、違います。
              (/interface_guide)

 

 敵は、死体の血を使っています。
 と、ガイドは言った。

 

 ……ん?
 ……んぅ……。
 あ、最初に拘束を解いたときの!

 

 僕は舌打ちをしてしまう。あ、あれから血を――大量にある、血。
 もう、死んでるからどれだけ失ってもかまわない。
 くそっ、終わったじゃないか。おい!

 

              (interface_guide)
            いえ、まだ手はあります。
              (/interface_guide)

 

 手なんてないよ!
 だって、唯一敵の限界が勝機だったのに、これじゃ!

 

              (interface_guide)
          あきらめるな!
         (/interface_guide)

 

 どでかい文字がでーんっと表示される。

 

             (interface_guide)
     いいですか。敵は死体から確かに血を操れます。
       しかしそれは、限界があるようです。
     見てみなさい、今、血は死体とつながってるでしょ!
             (/interface_guide)

 

 と言われ、僕は這って方向を転換。
 Xが佇んでいるのを目撃した。
「――あ、あれは」
 まるで赤いロープのようなものが、彼女のわきに浮かんでいる。
 あれから、血の弾丸が放出されたようだ。

 

             (interface_guide)
         あれから、攻撃してるようですね。
             (/interface_guide)

 

 あれを、死体からわざわざ能力で伸ばして――ここまで運んでいるのか。
 僕は絶句する。
 あ、あれはどこまでいける?

 

             (interface_guide)
    そう、だから結論としては最初と同じになるんですね。
             (/interface_guide)

 

 逃げろ!
 ガイドは言った。
 僕は這って進みながら、血の弾丸が頭上を通り過ぎるのを体感しながら、這って這って進み進み――ある程度距離を取ると、低姿勢のまま駆けだして逃げた。
「はぁっ……はぁっ……ひぃっ!!」
 血の弾丸は音もなく、風を切る音だけなんで、本当に心臓に悪い。
 これが音を鳴らすときは、風や高木など、もうすでに何かを傷つけたあとである。

 

             (interface_guide)
      距離――距離さえ、取れれば大丈夫なはずです。
             (/interface_guide)

 

 敵は血液を操る能力者。
 確かに、それはすごい。
 あんなふうにただの血を弾丸のようにするなんて。
 ――だが、それでもやはり血を操るっていうルールは厳しすぎる。
 自分の血だと限界があるし。
 他人の血だと、あのようにロープのようにして伸ばさないとダメなんだろう。

 

             (interface_guide)
 おそらく、元々血が体から離れるとすぐ効力をなくすんじゃないでしょうか。
    死体から血を操るとき、ロープのように伸ばしたのもこれが原因。
     そして、さっきから弾丸のように飛ばしてるのも、これが理由。
             (/interface_guide)

 

 なるほど、それなら説明がつく。
 だが、逆を言ってしまえば、距離。距離さえ取ってしまえば、敵は死体から血を操れなく――いや、完全にとまではいかなくても、操りにくくなれば。
 そして、敵が不利な状態になれば、いくらでもやりようは。

 

             (interface_guide)
    そう、もう少し離れたら簡易的な罠でもはりましょうか。
           雑草を利用した足払いや、

  あなたの場合は髪の毛を硬くすればワイヤーのようにもなります。
      ワイヤーがあれば罠の種類は一気に増えますよぉ。
             (/interface_guide)

 

 やった――。
 これで、僕は勝機がやっと見えてきた気がした。
 そうだ、あきらめずに戦えばどんな強敵にも勝機が――

「一応、正々堂々のために言うぜ? 真上から殺す」

 と言われ、僕が頭上を仰ぎ見ると――
 X。
 彼女が、血を鎌のような形状に変えて浮かんでいた。
 遅れて破裂音。

 

             (interface_guide)
              しまった。
     これが、敵が急に速度を上げて迫ってきた理由!
             (/interface_guide)

 

 巨大な弾丸を作り、それに乗っかって――突撃してきやがった!
 僕は、戦慄する。


「あっ――」


 あ、死んだと。

 

「死ね」

 彼女の冷たい声が、いつまでも脳裏にひびきそうで――


 

 NEXT → 第十三話「夢」

 

 

 

 本編もよろしく。

 カクヨム投票しめきりまで、もうわずか!

kakuyomu.jp

 

何か失礼な前振りになってすいません(『パンチライン』 感想)

 ぼんやりと気付いたら、暗闇におりましたぁ。

 あっしは一生懸命、創作に勤しんでいたんですが。

 気がついたらぁ、こんな暗闇でさぁ。

 お先真っ暗、辺り真っ暗でクララもびっくりで、もうどうしようかと……いう人は、何も某サイトの人達だけじゃない。

 いや、世の中には多分これ誰も知らないだろーなという作品がある。

 それを紹介するのが、本来なら評論家と呼ばれる人達なんだろうが――まあ、いい。

 

  いや、この前振りで説明するのがすごく失礼になりそうだけど。

 実際、どれぐらいの人が知ってるんだろうと思われる作品である。

(ちなみに元々はゲーム用のネタで、あるキッカケでアニメ化した)

 

 どういう内容かと言えば、抜け出た魂の状態になった主人公が。

 四人の女性たちと暮らす寮を舞台に、あんなことしたり、こんなことしたり……はしないんだけど、ともかく、ある目的のために活動をするって話。

 

 あれだ、昔ドリームキャストで青年の部屋をのぞき、勝手に家具の配置を変えたりして遊ぶゲームがあったが……あれ、何の需要があったんだろうかドリームキャストは色々とドリームしすぎな気がする。(いや、そこがいいんだけどね!)

 

 ちなみに、このアニメはただムフフと女の子達にナイショであんなことや、こんなことをするだけじゃない。

 実をいうと、ループものである。

 そう、『シャタインズゲート』や『クロスチャンネル』もそうだったか。いや、今の人分からないか――あと、『ひぐらしのなく頃に』とかね。

 

 

 で、えーと、まぁ……冷静に考えると、割と簡単に物語の事件を解決できたんじゃね? って結末ではあったんだけど……。

 しかし、最終回の戦闘は作画がすごかったし。

 何より、最終的に主人公はハーレムにならず、それこそ――俺なんていらねぇって感じで、女性達だけの日常ものになるような描写がね。何だか、うるっときた。

 いや、隠れた名作だと思ってるんで、ぜひ。

 おすすめです。

(おすすめしてるように見えないかもしれんが)

僕は2000年を振り返ろうと思う(「騒音の怪物」番外編) 第十一話 「010 学校4」

 はじめに

 *カクヨムに投稿している「騒音の怪物」の番外編です。

  最近の話で、ようやくこの番外編とつながってきました。

 

 

 これまでのまとめ。

僕は2000年を振り返ろうと思う(騒音の怪物 番外編) まとめ

 

 前回の話。

 第十話 「009 学校3」

 

 本編

   僕は2000年を振り返ろうと思う

                   第十一話 「010 学校4」

 四月五日。
 この頃は、桜が咲いていた気がする。
 僕が好きなのは枝が申しわけなさそうに垂れ下がり、日本独特の風景を見せる桜だ。
 僕が当時好きだったのは公園に咲いていた。
 建物と建物の間にある小さな公園。申しわけ程度に、市の予算が余ったから公園でも作っておけば文句は言われないだろうと作られたかのような、あまりにも小さな公園。砂場はなく、でもベンチと滑り台、小さなアスレチックがある。そして、何より桜の木が植えられている。四本か、五本か……いや、三・四本かな。小さい公園だし。
 桜の花びらはひらひらと――廃墟の外壁が剥がれ落ちるように、ゆっくりと散っていった。
 足下には大量の桜の屍。
 桜の木は雪がつもった雪山のようにそびえ立ち、少なくても春を過ぎて夏になっても溶けなそうな威圧感を見せていた。当時は。だがもちろん、桜の木は散った。桜の花びらは消えた。雪が溶けるよりも早く、その美しい景色は消えたのだ。


 僕はふとしたキッカケで、眼鏡をかけた少女と談笑している。
「そう、あの子と友達なんだね」
 箱守睦美(はこもりむつみ)。彼女と同じ女子校に通っていて、クラスメイト。
 友達らしい。
「……そう、図書館でばったり会ったんだ」
 僕らは喫茶店に入っていた。
 当時は中学生だったから、喫茶店に入るのは初めてで妙な緊張があった。それは彼女もいっしょだったようで、頼んだのは彼女の舌に合わないコーヒーだったらしい。このとき、大人だったらカフェオレでも注文してあげるのかな。このときの僕は余裕がなく、僕も僕で苦いコーヒーにどうしようか悩んでる最中だった。
 喫茶店の内装は落ち着いた雰囲気で、アメリカのカントリーソングが流れている。
 木目の床に天井。白い壁は所々、アメリカ文学から引用したらしい一節が書かれている。
「ここ、サリンジャー
「あ、ホントですね」
 僕が言うと、箱守さんはにっこりと笑った。
 こういっちゃ彼女に失礼だけど、彼女の友達にしては常識人だ。というか、まともだ。
 彼女の友達と聴いていたから、てっきり僕はサダム・フセインが大好きと言うのかと思ったけれど……いや、この頃はニュースで話題になってないか。というか、時期的におかしい? こんがらがる。
「箱守さんは? あの人、そんな気軽に話しかけられるとは思わないけど」
 僕と箱守さんが出会ったのはあの場所だ。
 図書館で彼女がいないかと探していたら、いつも座っていた席に彼女――いやあの危険な彼女じゃなくて、この安全そのものの箱守さんが座っていたんだ。
 何でも、今日は来られないから伝えてって。
 ……いや、わざわざ箱守さんを待たせて言わせるか、と思ったが。当時はケータイがまだ珍しかったし。いやいや、ホントだ。持ってる人は持っていたけれど。それに、ポケベルなんてそろそろ終わりを迎えていたはずだ。いや、これはちょっと記憶が定かか分からない。
「いえ、あの子。外面はいいんですよ? ……中身は、すごかったけど」
 マグカップを両手でつかみ、ちびちびと飲んでいく。
 思わず見とれていて、慌てて僕も飲んだフリをする。苦い。
「あの子、ワタシを助けてくれたんです」
「……箱守さんを?」
 彼女が人助け?
 悪党がボランティア並に似合わない単語だ。
 僕は眉をひそめるが、それを見てやっぱりと彼女は笑った。
「あなたのとこでも同じみたいですね」
「……嫌なことにね」
 お互い、妙な巡り合わせだというように苦笑した。
「あの子、ワタシをいじめから助けてくれたんですよ」
 その言葉に、僕は衝撃を受けてしまう。
 思わず、彼女の好感度が急激上昇し、天にまで昇りそうだった――が、すぐにやめた。
「ちなみに、どうやって助けたの?」
「たった一言です。一度、意見の相違である女子と口論になって、それでワタシが周りから無視されそうだったんですが……彼女の一言で終わりましたね」
 きもちわるい。
 タダ一言、その一言だったという。
 ああ……僕は納得した。
 いつもの彼女だ。
「……本当に気持ち悪そうに言ったんだね」
「……えぇ。この世にある軽蔑の表情を全て浮かべたら、かつ無駄なくスマートにしたら、あーなるんだっていう顔をしました。あれを見せられたら、全員が何かを奪われますよ」
 彼女は、気持ち悪いから言ったんだ。
 それが結果的に人助けになったから、よかったとは思う。
 だが、それだけで済ませられる話でもない。
 彼女は、集団の軋轢や抗争みたいなのが反吐が出るほど嫌いだったんだろう。

 殺したいとかそういう次元じゃない。

 あまりにも憎みすぎて炎が空間にこびりついてしまったかのような。消えても、存在が一生離れられなくなったかのような。
「彼女、集団が嫌いなんだろうね」
「ただでさえ人間が嫌いですよね。それがいっぱい集まると余計に嫌いになるって、ことなんでしょうね」
 僕と箱守さんの意見は同調する。 
 その通りだと、お互い思った。




 ――という、小説を彼女は僕に見せてきた。
「どうかしら?」
「……誰?」
 箱守さんって。

 というか、どうって。

 いや、その言葉しか思い浮かばないでしょ。あとは全てにおいて意味が分からない。

 

 

 あと。

 

 

 「騒音の怪物」はこちらになります。

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数字で終わらせるなという想いが伝わる(『マネー・ショート 華麗なる大逆転』 感想)

 さっきまでこれを読んでいた。

アベノミクスで日本経済大躍進がやってくる (現代ビジネスブック)

アベノミクスで日本経済大躍進がやってくる (現代ビジネスブック)

 

  いや、細かいとこは分からないけれど。

 ともかく、日銀てめー、この野郎! ということと。

 アベノミクスに寄せられる期待が書かれている。

 ……正直よー分からかったけど。

 反対意見や、経済の知識もつけて、いずれもう一回読んでみたいと思う。

 

 

 ……金融ってのは、あんまりにも広大すぎて素人には何が何だかさっぱりな世界だが、しかしこれを知ってる・知らないで大きく違うだろうってことで、最近勉強している。

 なので、あの映画ももちろん見てきた。

www.moneyshort.jp

 

 大まかな、話だけは分かった気がする。

 金融市場を大きく変えた男がいました。

 でも、そのせいでこういうことが起こりました。

 はじめはみんな、そんなことが起こるはずがないと余裕ぶってましたが。

 それをあらかじめ予期していた奴らがいました――か。

 

 といっても、その予期してた奴らは協力してるわけじゃない。

 というか、知り合ってもいない。

 映画の表紙じゃ四人並んで、これから悪党と戦うぜ、みたいに見えるけど。

 でも、チームを組んでるのは一つ、二つはあるけど、それだけだからね。

 群像劇だけど、それぞれがつながってるわけじゃない。

 影響は多少あるけれど、本当にささいなものだ。

 それで何か決定的なことが起こるかと思えば――起こらない。

 

 そう、ある意味では何も起こらない映画といえる。

 細かいことは全然分からなかったけどさ。

 でも、ライムスター宇多丸さんの映画評でもあったとおりそここそがこの映画の本質なんだと思う。いや、偉い人に乗っかって言っただけだ。

 しかし、分からないからさ。俺がこうやってちょっと本を読んだだけじゃ分からない――魑魅魍魎のような混沌とした世界に見えるから、そこで暗躍してる奴らがいたらしいんだよね。

 

 あらすじの続きをすると。

(おいおい、このままじゃもしかして世界経済やばくね?)

 と疑い、あるグループが調査に乗り出すんだけど。

 この、調査した結果がね――ホント、ひどくて。

 低所得者に平気で絶対払いきれないだろうと思われる不動産を売ったり、しかもそれを自慢話として豪快に笑っていたりして――まるで、『食人族』の白人か『アクト・オブ・キリング』のギャングを見てるような心境だった。

 この蓄積が、ある一つの結果を生み出す。

 サブプライムローンだね。

 

 それにより、リーマンショックも起こる。

 この映画では、それにより会社を辞めざるを得なくなった者達が出てくる。

「18年間も働いてこれかよ!」と怒る人がいた。

 印象的なのは、サブプライムローンの気配に気付いた者達のひとつ――ある男二人組が、無断でここに侵入するとこだ。

 ま、リーマンブラザーズに侵入って昔だったら大事件だっただろうけど、このときは廃墟に乗り込むようなものだったんだ。

 そう、実際に廃墟だった。

 電光掲示板に多数の数字が浮かぶが、机には誰もいない。

 無人のデスクばかりが並ぶ部屋。

「誰もいないなんて……」「誰がいる思ったよ?」「大人」

 という会話が、これまた重い。

 

 そして、何よりこの映画で悲惨に見えたのは、サブプライムローンで低所得なのに不動産を売りつけられた者達――家を出なければならず、その様子はまるで難民のようだった。

 いや、実際にそうなのだろう。

 この場合は戦争や災害じゃない、思いっきり人の手による人的災害だ。

 しかも、事故ですらない――

 

 何者にもなれないお前達というセリフがある。

 意味合いはここで使うのとは別の意味で使われるのだが、ともかく、名前も持たないと言われる人々がいる。俺とかそうだろう。大局から見れば、蒼ノ下雷太郎? は? 小説家志望? それがどうしたと冷笑されるだけだ。しかし、俺にはちゃんと名前があるんだ。筆名だけじゃない、本名だってちゃんとある。

 そして、俺以外にもたくさん名前を持ってる人がいる。少なくても、アメリカや日本には名前を持つ者がほとんどだろう。――それなのに、まるで彼らには名前もなく、ただの記号――数字として、終わらせようとする輩がいる。

『マネーショート』が一番怒りを見せるのはそこだ。

 

「彼らは、数字で終わらされるんだぞ?」

 

 (いや、一字一句あってる自信はないが)

「約四万人の被害を受けた人々が――」で、終わらせられるんだ。

 ここにこそ、この映画は怒りを見せたんだ。

 最近だと、分かりやすい、簡単な物語が好まれる傾向にあるらしい。

 文化系トークラジオで言ってた気がするよ。そして、俺も多分そうなんだろうなと思う。

 でもさ。分かりにくいからこそ、大事なことがあるんじゃないかな。

 正直、『マネーショート』はちょっと勉強したじゃ全然分からない――分かりにくい映画だよ。いや、大筋は何となく分かるけどね。

 いや、分かる・分からないは問題じゃないんだよ。

 この映画には、それでも分からなきゃいけないと思わされる――力があるんだから。

 それは、エンタメ的要素じゃない。

 このままじゃダメだという危機感――もしくは、道徳の力か。

 映画は、そのまま絶望のままに終わる。映画のようにヒーローが登場して救ってくれることなんてない、奇跡的な誰かの功績で話が展開するわけでもない、ただ絶望のまま――何も起こらないままで終わる。

 だからこそ。

 だからこそ、このままじゃダメだよと思う力が鑑賞した者にふつふつと湧いてくるんだ。

 

 

 俺が好きな日本映画で、松本清張原作の映画シリーズがある。

 監督はそれぞれ違うけどね。(ちなみに、MGSの小島秀夫監督が良いって言ったから見るようになった)

 普通のミステリーや、サスペンスなら、探偵や刑事のような特殊な職業、もしくはヒーローが主人公だろう。でも、松本清張に出てくる人って、どれもこれも普通の人々なんだよ。

 そう、本来ならヒーローより普通の人々の方が多いはずなんだ。

 そして、それこそ本当は大事にしなきゃ、ちゃんと描かなきゃいけないことなんじゃないかな。

 だって、これほど身近なことはないじゃないか。

 

 ……と、今まで抱いていた思いを、より深く感じさせてくれる映画でした。

 もう、上映期間は少ないというか、そろそろ終わりかな?

 でも、機会があったらぜひご鑑賞あれ。

 もしくは、原作本でもいいしね。

 

 

 以上、蒼ノ下雷太郎でした。

 した!

I’ll(『7start 2.0』番外編) 第十一話「死亡フラグ」

 はじめに

 *スマホだと一部表記が乱れる可能性があります。

 

 これまでのまとめ。

 I’ll まとめ (7start 2.0 番外編)

 

 前回の話。

I’ll まとめ (7start 2.0 番外編)

 

 本編

 I’ll 第十一話「死亡フラグ

 

 034

 

 ――僕が取った選択肢はただ一つ。

 

 リスを助けること。


 いくら敵と戦うといっても、彼女を死なせては意味がない。

 だから、僕はあろうことか敵に背中を向けて小屋に行き、リスを助け出した――その間、敵は何もせずにずっと立ちつくしていた。

 

「……は、……はぁっ?」

 

 い、いや。
 ……はい?
 逆に、僕が仰天してしまう事態だった。
 え、いや、確かに内心は襲わないでくれ頼むから、襲わないでくれと願っていたけど。
 ……え?
 いや、その。
 何で、……え、何で本当に襲わないの?


「………」


 敵は仏頂面。
 灰色のニット帽を被り、金色の短髪。顔立ちは端正で、美形。ツナギはボロボロで汚れもひどく、――ん?
 僕はあることに気付いた。彼は、妙に汗をかいてるような気がする。

 

                (interface_guide)
                説明しましょう。
      あなたを待っていたのは、四番街の族『牙』特有のことです。
                (/interface_guide)

 

「は?」
 僕は思わず声を上げてしまった。
 いや、相手にはこの拡張現実のウィンドウは見えないから、おかしな光景だが。

 

                (interface_guide)
               彼ら『牙』の戦士は
           昔でいう武士道に近い教えがあります。
         そのため、教えを守る方法が戦士各々にあって
      この子の場合は、それがタイマンをはることなようですよ。
                (/interface_guide)

 

 タ、タイマンって……え、タイマン?
 タイマンってのは、一対一で戦うってことだろうか。
「……っ」
 恐れおののく僕。
 しかし、相手のXとやらは平然としていた。
 ツナギの胸ポケットからナイフを取り出した。バタフライナイフ――見たことある。最初はただの棒に見えるが、左右に開閉する仕組みになっており、開くと刃が出てきて柄に変形もできるっていう――カチャッ――カチャッと、彼はナイフを動かした。
 で、くいっくいっと僕に刃を向けて、さっさとかかってこいと示してきた。
「……ど、どういうこと」
 小声でガイドに聞く僕。

 

                (interface_guide)
                だから、タイマン。
              一対一で戦えってことでしょ。
      まあ、リスを助け出す間を見逃してもらったのはよしとしまして――
                (/interface_guide)

 

 と、ガイドは一旦区切り。

 

                (interface_guide)
           ……で、この子と戦うとどうなるか。
            率直に言うと、アイルは負けますね。
                (/interface_guide)

 

 あっさり言うね。
 冷や汗が垂れる。
 いや、僕も地下都市に来たばかりでそんな自信なんてないし。
 相手は……えーと、どれだけ偉いか分からないけど。最初に、何か位みたいなのガイドが言ってた気がするけど。

 

               (interface_guide)
               相当強いです。
        リスとあなたの二人がかりでも勝てないですよ。
               (/interface_guide)

 

 そ、そんなに……?
 僕は戦慄する。

 

               (interface_guide)
         四番街は十三の地区に分けられています。
          それは地下都市全体が荒廃したのちに
    それぞれの区で争いが起こり、妙なナショナリズムが生まれました。
          だから、四番街を統一した『牙』は
        その呪縛を解くためにある存在が必要だった。
      それは、街を統一した英雄――ようするに、ヒーローです。
               (/interface_guide)

 

 それを聞いて、僕はキョトンとする。
 ヒ、ヒーロー?

 

               (interface_guide)
                 そう。
    例えて言うなら、昔の地方ごとにプロ野球やサッカーのチームがいるのを
             想像していただければ
               (/interface_guide)

 

 いやそんなこと言われても――。
 ああ、そうか。そうえいば、VRにいた頃にそんな記憶があったような。
 誰かがプロ野球の試合に熱狂していた気がする。

 あれは、昔の日本をモデルにしていたから。
 思い出といってもVRの偽りの世界だけどさ。

 

               (interface_guide)
        地区ごとに地区を代表とする戦士を用意する。
       そして、その戦士は出身が違う別の区から選抜する。
        そうすることで、地区ごとの垣根を破壊させて
              羨望を一挙に集めた
               (/interface_guide)

 

 そう言われて、僕は納得した。
 ようするに、彼らは統一する柱。広告塔のようなものでもあるのか。

 

               (interface_guide)
           広告塔というより看板ですかね。
          人々はヒーローである彼らを崇める。
         それは宗教といっても過言じゃありません。
           十三の地区から生まれた戦士。
           それを『十三大将』と呼びます。
               (/interface_guide)

 

 そして、ガイドは続けた。
 十三大将ってのは何も一人の戦士のことだけを差すんじゃない。
 その他にも副将、そして子――部下となる者がいるんだとか。ようするに、一つの部隊だ。
 なるほど、で、全部で十三の部隊がいる。

 

              (interface_guide)
         で、あの子は八番隊大将に所属しています。
            そして、そこの『子』。
      地位としてはまぁ大体三番目くらいに偉いですかね。
  いえ、ぶっちゃけ部隊にいる者達は少数精鋭なんで数が少ないのもあるんですが
              (/interface_guide)

 

 い、いや。
 それって、でもやっぱり、すごいことじゃないか。
 少数って理由も、本当に選ばれた奴しか入れないから。
 あんな子供が――僕ぐらいの年齢の子が、そんな地位についてるんだから。
 すごい異例のことなんじゃないか。

 

              (interface_guide)
             牙は実力主義ですから。
        他にも若くして大将になった子もいるんですが。
      ……さて、あの子がどれだけ強いのかはもういいでしょう。
         問題は彼女からどうやって逃げるかですが。
              (/interface_guide)

 

 と、不意に僕は気になった言葉があった。
「彼女?」
 ふと、今度はXが反応してきた。
 あ、しまったと。
 僕は今頃になって思った。頭に浮かんだことを言ってしまった。
 Xはいきなり赤面し、同様しだす。
「何で分かった!?」
 はい?
 敵はいきなり叫びだした。
 な、何を叫んで――と、というか。
 声が、高い?

 

              (interface_guide)
            あの子、女の子ですよ?
              (/interface_guide)

 

「――っ!?」
 目を見開く。
 改めてXを見入る僕。
 頭の先から足の裏まで見るように――いや、小柄で顔つきも端正だけど、でもそれにしたって。
 か、体つきは――そんな、細くはないよ。

 

              (interface_guide)
        細い=女性と判断するのもどうかと思いますが。
          あれ、ツナギの下に服を着てますよ。
      そのまま着ると、ダボダボになるからそのためでしょうね。
         だから、無駄な汗をかいてるんですね。
              (/interface_guide)

 

「あー、なるほど」
 と、またしても言葉にしてしまう。
 Xはまた露骨に反応し。
「何がなるほどだっ!?」
 やばい……。
 無駄に相手を怒らせちゃったようなんだけど。

 

              (interface_guide)
           理由は流石に言いませんけど。
           そこまで気にしてたんですね。
        彼女はある事情で女の子であるのを隠していますが。
         ……しかし、ここまで想いが強かったとは。
              (/interface_guide)

 

 それって、きみがミスったってことか。
 僕は冷や汗をまたたらりと垂らす。
 やばい、相手はすごい本気だぞ。
 プルプルと震えている。怒りで目尻に涙まで浮かべている。
 おいおい、この子は新手なんだろ?
 さっきまで、いつ殺されるか不安だったのに。急に不安が消えて――

「殺してやる」

 だが、そんな油断した僕を嘲笑うようにXはナイフで自分の指を切った。
「えっ――」人差し指。
 指から血が出て――それが、弾丸のように僕に向かって来る。

 

             (interface_guide)
              硬貨して!
             (/interface_guide)

 

 慌てて、僕は体の一部を硬質化――体の前面を硬くすることで、敵の攻撃を防いだ。
 額が強い衝撃を受けるが――死にはしなかった。

 

             (interface_guide)
         敵は『血液をあやつる能力者』ですね。
             (/interface_guide)

 

 はははっ……僕の血圧が急激に下がった気がした。

 

 

 NEXT → 十二話「死にたくない」

 

 

 

 本編もよろしく!

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溢れる母性が止まらない(『チャッピー』感想)

 そういえば、『チャッピー』がもう旧作の料金で借りられるなと。

 数時間前の俺は一発ブン殴ってやりたいことを言っておりました。

 馬鹿が!

 旧作とか新作という問題じゃない、映画館で見たか見てないかの違いだこれは。

 ……残念ながら、その真実に気付けたのは俺がこの映画を見終わってからだったのだ。

  『チャッピー』。

 監督は、『第9地区』や『エリジウム』のニール・ブロムカンプ

 念のために言っておくが、この人はだ。

 しかも、表紙から分かるとおり押井守など日本アニメの影響を色濃く受けていて、オタク。重度のオタクである。

 しかし、どういうわけかこの映画は溢れんばかりの母性が出てくる映画だ。

 見る者全員の母性愛を目覚めさせる映画だ。

 監督は世界中の男児を母性愛に目覚めさせようと企んでいるのだろうか。理由は分からない。しかし、ここに母性愛に目覚めてしまったワナビがいるので、可能性はあると思う。そう、可能性は誰にも奪えないのだ。

 自分でも何言ってるか分からない。

 

 あらすじ、は。

 南アフリカ共和国に、治安維持のためにロボット警察を導入。

 それは、ロボコップや昔の特撮のようなサイボーグではなく、ロボットであった。

 一からAIやら、チタンの体でできた機械仕掛けの人形。

 しかし、そのロボットを作った開発者は、ロボット警察だけじゃ満足できなかった。

 このロボットは細かい動作や認識システムはあるらしいが、それでも完全な人間とはほど遠いらしい。

 だから、彼が目指したのは本当の人間のような――完璧な人工知能である。

 彼はその人工知能を社長に受け入れてもらえず、仕方なく廃棄処分されそうだった機体を使って実験しようとするのだが――運悪く彼は悪党達に拉致られてしまい、その完璧な人工知能入りのロボットが、悪党達に渡ってしまうという――話だ。

 

 

 動いた途端、子供のように物陰に隠れ、大声を上げると怯え。

 おいでおいで、と優しく言うと徐々に近づいてくるロボット。

 そして、このロボットには名前が与えられ『チャッピー』となる。

 この映画を1%でも見たいと思ったあなた、予告しよう。『チャッピー』はかわいい。

 やばい、かわいいのである。

 そのかわいさに、『強奪するにはロボットをパクればよくない? 開発者襲っちゃおうよ』とぬかしてた女悪党はたちまち虜になってしまい、母性に目覚める。仕方ない。俺だって目覚めるくらいだ

 そんなかわいい奴が出るのだから、見てる方は『チャッピー! チャッピィィィッッ!!』と大騒ぎするのだが、だが残念かな。かわいい子がかわいいことする作品はあるが、この映画はそういう類ではない。むしろ、かわいい子がひどい目に合うのを見せる世にも残酷な映画だ。

 

 チャッピーは、火炎ビンをぶつけたられたり、左腕を切断されたり、CPU抜き取られたり、ありとあらゆる責め苦を味わい。その度に俺の中に秘められた母性愛が怒号をはなち、何度も進撃の巨人化――したのだが。

 くっ、次元の壁は越えられなかった。何で俺は液晶の中に入れないのだろう。

 ともかく、母性愛に目覚めたい人にはおすすめです。

 え、男だから関係ない?

 男だから見るんだよ!

 これを見て、全ての人間がチャッピーにひれ伏せばいいんだ!

 

 以上、蒼ノ下雷太郎でした。