I’ll(『7start 2.0』番外編) 第十一話「死亡フラグ」
はじめに
*スマホだと一部表記が乱れる可能性があります。
これまでのまとめ。
前回の話。
本編
I’ll 第十一話「死亡フラグ」
034
――僕が取った選択肢はただ一つ。
リスを助けること。
いくら敵と戦うといっても、彼女を死なせては意味がない。
だから、僕はあろうことか敵に背中を向けて小屋に行き、リスを助け出した――その間、敵は何もせずにずっと立ちつくしていた。
「……は、……はぁっ?」
い、いや。
……はい?
逆に、僕が仰天してしまう事態だった。
え、いや、確かに内心は襲わないでくれ。頼むから、襲わないでくれと願っていたけど。
……え?
いや、その。
何で、……え、何で本当に襲わないの?
「………」
敵は仏頂面。
灰色のニット帽を被り、金色の短髪。顔立ちは端正で、美形。ツナギはボロボロで汚れもひどく、――ん?
僕はあることに気付いた。彼は、妙に汗をかいてるような気がする。
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説明しましょう。
あなたを待っていたのは、四番街の族『牙』特有のことです。
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「は?」
僕は思わず声を上げてしまった。
いや、相手にはこの拡張現実のウィンドウは見えないから、おかしな光景だが。
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彼ら『牙』の戦士は
昔でいう武士道に近い教えがあります。
そのため、教えを守る方法が戦士各々にあって
この子の場合は、それがタイマンをはることなようですよ。
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タ、タイマンって……え、タイマン?
タイマンってのは、一対一で戦うってことだろうか。
「……っ」
恐れおののく僕。
しかし、相手のXとやらは平然としていた。
ツナギの胸ポケットからナイフを取り出した。バタフライナイフ――見たことある。最初はただの棒に見えるが、左右に開閉する仕組みになっており、開くと刃が出てきて柄に変形もできるっていう――カチャッ――カチャッと、彼はナイフを動かした。
で、くいっくいっと僕に刃を向けて、さっさとかかってこいと示してきた。
「……ど、どういうこと」
小声でガイドに聞く僕。
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だから、タイマン。
一対一で戦えってことでしょ。
まあ、リスを助け出す間を見逃してもらったのはよしとしまして――
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と、ガイドは一旦区切り。
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……で、この子と戦うとどうなるか。
率直に言うと、アイルは負けますね。
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あっさり言うね。
冷や汗が垂れる。
いや、僕も地下都市に来たばかりでそんな自信なんてないし。
相手は……えーと、どれだけ偉いか分からないけど。最初に、何か位みたいなのガイドが言ってた気がするけど。
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相当強いです。
リスとあなたの二人がかりでも勝てないですよ。
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そ、そんなに……?
僕は戦慄する。
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四番街は十三の地区に分けられています。
それは地下都市全体が荒廃したのちに
それぞれの区で争いが起こり、妙なナショナリズムが生まれました。
だから、四番街を統一した『牙』は
その呪縛を解くためにある存在が必要だった。
それは、街を統一した英雄――ようするに、ヒーローです。
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それを聞いて、僕はキョトンとする。
ヒ、ヒーロー?
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そう。
例えて言うなら、昔の地方ごとにプロ野球やサッカーのチームがいるのを
想像していただければ
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いやそんなこと言われても――。
ああ、そうか。そうえいば、VRにいた頃にそんな記憶があったような。
誰かがプロ野球の試合に熱狂していた気がする。
あれは、昔の日本をモデルにしていたから。
思い出といってもVRの偽りの世界だけどさ。
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地区ごとに地区を代表とする戦士を用意する。
そして、その戦士は出身が違う別の区から選抜する。
そうすることで、地区ごとの垣根を破壊させて
羨望を一挙に集めた
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そう言われて、僕は納得した。
ようするに、彼らは統一する柱。広告塔のようなものでもあるのか。
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広告塔というより看板ですかね。
人々はヒーローである彼らを崇める。
それは宗教といっても過言じゃありません。
十三の地区から生まれた戦士。
それを『十三大将』と呼びます。
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そして、ガイドは続けた。
十三大将ってのは何も一人の戦士のことだけを差すんじゃない。
その他にも副将、そして子――部下となる者がいるんだとか。ようするに、一つの部隊だ。
なるほど、で、全部で十三の部隊がいる。
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で、あの子は八番隊大将に所属しています。
そして、そこの『子』。
地位としてはまぁ大体三番目くらいに偉いですかね。
いえ、ぶっちゃけ部隊にいる者達は少数精鋭なんで数が少ないのもあるんですが
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い、いや。
それって、でもやっぱり、すごいことじゃないか。
少数って理由も、本当に選ばれた奴しか入れないから。
あんな子供が――僕ぐらいの年齢の子が、そんな地位についてるんだから。
すごい異例のことなんじゃないか。
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牙は実力主義ですから。
他にも若くして大将になった子もいるんですが。
……さて、あの子がどれだけ強いのかはもういいでしょう。
問題は彼女からどうやって逃げるかですが。
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と、不意に僕は気になった言葉があった。
「彼女?」
ふと、今度はXが反応してきた。
あ、しまったと。
僕は今頃になって思った。頭に浮かんだことを言ってしまった。
Xはいきなり赤面し、同様しだす。
「何で分かった!?」
はい?
敵はいきなり叫びだした。
な、何を叫んで――と、というか。
声が、高い?
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あの子、女の子ですよ?
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「――っ!?」
目を見開く。
改めてXを見入る僕。
頭の先から足の裏まで見るように――いや、小柄で顔つきも端正だけど、でもそれにしたって。
か、体つきは――そんな、細くはないよ。
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細い=女性と判断するのもどうかと思いますが。
あれ、ツナギの下に服を着てますよ。
そのまま着ると、ダボダボになるからそのためでしょうね。
だから、無駄な汗をかいてるんですね。
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「あー、なるほど」
と、またしても言葉にしてしまう。
Xはまた露骨に反応し。
「何がなるほどだっ!?」
やばい……。
無駄に相手を怒らせちゃったようなんだけど。
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理由は流石に言いませんけど。
そこまで気にしてたんですね。
彼女はある事情で女の子であるのを隠していますが。
……しかし、ここまで想いが強かったとは。
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それって、きみがミスったってことか。
僕は冷や汗をまたたらりと垂らす。
やばい、相手はすごい本気だぞ。
プルプルと震えている。怒りで目尻に涙まで浮かべている。
おいおい、この子は新手なんだろ?
さっきまで、いつ殺されるか不安だったのに。急に不安が消えて――
「殺してやる」
だが、そんな油断した僕を嘲笑うようにXはナイフで自分の指を切った。
「えっ――」人差し指。
指から血が出て――それが、弾丸のように僕に向かって来る。
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硬貨して!
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慌てて、僕は体の一部を硬質化――体の前面を硬くすることで、敵の攻撃を防いだ。
額が強い衝撃を受けるが――死にはしなかった。
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敵は『血液をあやつる能力者』ですね。
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はははっ……僕の血圧が急激に下がった気がした。
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