*スマホだと一部表記が乱れる可能性があります。
これまでのまとめ。
前回。
I’ll 第六話「生きる?」
021
僕はまだ、人の死についてよく分かっていない。
だって、そうだろ。
画面越しに現実世界を見続けてきた僕にとって……VR人にとって、そんなの理解しがたい感情だ。現象だ。
だって、肉体がない。
僕らVR人が、どう肉体がないのか。
僕らは不死なのかどうか、死ぬとしたら一体どうやって死ぬのか。
よく分かっていないけれど……多分、死ぬときは気がついたら死んでたって感じかな。
コンビニの棚にいつのまにか新商品がなくなったかのように。
僕は――消えて、いくのかな。
022
(interface_guide)
起きろ!
……お、起きたまえぇぇ……。
(/interface_guide)
ふと、意識が海から陸に上がるようにもどってくる。
目蓋を――
(interface_guide)
STOP。
起きましたね? じゃあ、目蓋を開けないで。
気付かれちゃうから。
(/interface_guide)
頼れる、ガイド。
目蓋越しに浮かび上がる、ガイドの文字。
そして、ガイドは視界が見えない僕に代わって映像を表示してくれた。
目蓋越しに――周りの映像が、好きに回転させるように表示される。
――<camera>360</camera>――
首を動かさずに、脳波だけであやつれる。
どういう仕組みかは分からないけど、便利だ。
夜のない地下都市にしては珍しい、やたらと暗い場所だった。
窓ガラスは板やダンボールで塞がれ、天井のライトを遮断している。
かすかにだが、木漏れ日のようなものがもれている。それで、少しばかりの視界はあるか。
「………」
僕は横に倒れている。
そして、その僕のうしろにはリスが同じく反対側に向いて倒れている。
『やっぱ殺したのまずかったかなぁ』
『馬鹿、大丈夫だよ』
そして、敵は二人いた。
……二人……。
一人は大柄で細めの男、もう一人は中肉中背だが目はぱっちり開いてる男。
便宜上、細目と中肉でいいか。
(interface_guide)
まー、それ以外に特徴ないですもんね。
着ているのもそこら辺のパーカーとかです。
(/interface_guide)
男達は部屋の隅で、ひそひそと話をしている。
かすかにしか聞こえない……。
ねえ、ガイド。一体、奴らは何なの?
何で、何でこんな誘拐なんて――
……人殺しなんて、するの。
僕は、クジラが死んだことまでは言及しなかった。
それが分かったのか、ガイドは一旦間をおいて発言する。
(interface_guide)
彼らは三番街の森深くに住む族の者です。
名を、カバタ族。
サズカ族と協力することが多い者達ですね。
(/interface_guide)
……サ、サズカ族?
カ、カバタ族に関しては知らないけど。
サズカ族……どこかで、聴いたことあるような。
<check>◆</check>
人間の記憶力ってそんなものなんですね。
</check>◆<check>
と、失望しましたと言うようなガイドだった。
おい、何だよ。こんなときまで僕を責めるなよ。
やめてくれよ……ただでさえ、まいってるのに。
(interface_guide)
………。
(/interface_guide)
ガイドの反応は冷ややかだ。
心がまいっちゃいそうな僕もお構いなく、わざわざ三点リーダーまで表示しやがった。
(interface_guide)
サズカ族。
三番街の族『V』よりも前に森に住んでいた者達ですね。
元は自然公園の管理人一家だったらしいです。
で、彼らは三番街や四番街に奪われたときも、森に住んで平和に暮らしてました。
(/interface_guide)
……え?
何で。
何故。
どうやって。
と、疑問が次々に浮かんでくる。
(interface_guide)
ゲリラ戦が得意だから、森では結構強かったのもありますし。
何より、森の管理を任せるには敵対するより協力した方が手っ取り早かった。
三番街を元々管理していたノザキとは仲が悪かったのもあって、
彼らは――いや、彼女らは、四番街と同盟を結びました。
(/interface_guide)
そ、それじゃ……あいつらは、三番街の敵?
(interface_guide)
いえ、一応はVとも同盟を結んでいます。
敵はあくまで四番街の奴らでしたから。
……ですか、そうやって論理的に割り切れるほど人は優しくはなく
いざこざは何回かあったそうですね。
で、おそらくサズカ族の方がしびれを切らして下手をうってしまった。
(/interface_guide)
よりによって、Vのナンバーズを襲ってしまったと……ガイドは言った。
……Vのナンバーズ……。
あ。
(interface_guide)
そう、九鴉です。
その事件は有名ですね。番組で特集してましたでしょ。
たまたま、遭遇したのをきっかけに彼を襲ってしまった。
それで、襲撃を企んだ者は抹殺され、関係は悪化――。
(/interface_guide)
で、彼女らの下部組織のような族――カバタ族か。
(interface_guide)
元々はサズカ族もカスカ族から分派した者なんですけどね。
カバタはさらに、サズカ族からの分派。
分派といっても、新しい生活の仕方を模索するという理由で、です。
噂ではお宝探しだとか言われるくらいで。
(/interface_guide)
……そんなことはどうでもいい。
僕は、ガイドを黙らせる。
……何で、何であいつらは……クジラを……。
(interface_guide)
あなた達を誘拐したのは単純明快。
人質にするためです。
子供達を守ることから始まったV。
だから、子供の命は惜しければ――と無理難題を課していけば。
信用はがた落ちになると思った。
(/interface_guide)
信用なんて!
僕は憤る。
そんな、そんなことのために……。
(interface_guide)
そんなこと?
(/interface_guide)
だが、ガイドから出る言葉は僕を叱責する言葉だった。
(interface_guide)
あなた程度がそんなことと言うもののために、
地下都市の住人がどれだけ苦労してるか、
分かっていってるんですか?
(/interface_guide)
な、何で責めるんだよ。
やめてくれよ。
ぼ、僕は……クジラが殺されたんだぞ。誘拐もされて。
そ、そんな状態で説教なんてごめんだよ。
(interface_guide)
甘えるな。
(/interface_guide)
だが、ガイドから出た言葉は冷血だった。
(interface_guide)
あなたが選んだゲームでしょ?
遊ぶつもりだったくせに、何を偉そうに被害者面してるんですか。
(/interface_guide)
ひ、被害者面なんて……そんなっ……僕は。
(interface_guide)
傷ついてると?
これまで、あなたが見てきたテレビ番組で大勢人が死んだのに。
(/interface_guide)
そ、それは――。
何も、言い返せなかった。
その通りだ。
僕が見てきたテレビ番組――この、『7start』でも、画面越しに大勢の人が死んでた。
そして、それを僕は愉しんでみていた。
もっと人死ねよ、とさえ言ったことがある。
でも……でも、僕は……。
(interface_guide)
問題は今ここでメソメソするより、でしょ?
戦いなさい。
(/interface_guide)
さわさわっ――と、僕の背中に、誰かがさわるような感触があった。
思わず僕はビクッと震えるが――幸い、男達は見ていなかったようだ。
僕は目蓋に映し出されるカメラを回す。
うしろにいるのは――そう、リスだった。
彼女も、意識が目覚めたようだ。
(interface_guide)
敵は二名だけのようです。
独断か……いや、下手したら切り捨てかもしれません。
使い捨て……いや、過剰な愛族精神がありますから、狂信者ですか。
今、Vからナンバーズの者が一人向かってきてますが。
来るのには大分かかるでしょう。
そして、あなた達の命はVに要求を与える間は大丈夫でしょう。
でも、それ以降は不明です。
まず、あなた方を生かしておく理由がない。
(/interface_guide)
り、理由がないなんて……そんな。
そんな理由で、人を殺すの?
そ、それも、子供をだなんて。
(interface_guide)
平和だった国でもレジスタンスのために
女・子供を伝言役にしてたことがあるらしいですよ。
大義名分は美味。彼らは、いえ人間はそういう生き物なんでしょうね。
(/interface_guide)
……ふざけるなっ。
胸に、我慢しきれない感情が湧いてくる。
何がサズカだ、カバタだ……。
クジラは、死んだ。
殺された。
そして、当の僕らも殺されそうになっている。
(interface_guide)
冷静にね。
怒りは大事な原動力です。
ですが、勢いが強すぎて気をつけないとレールを突き抜けてしまう。
大事なのは……冷静さですよ。
(/interface_guide)
でないと、殺したい奴も殺せない。
ガイドは言った。
「………」
もしかして、こいつは僕にとってメフィストなんじゃないかってすら思う。
(interface_guide)
ほら、リーちゃんにも返事してあげて――って、しましたか。
(/interface_guide)
僕は、リスの手をにぎりしめる。
彼女は最初驚くも、僕の手を力強くにぎり返した。
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